養子縁組と養子離縁・取消

 横浜のアオヤギ行政書士事務所」が養子縁組の届出・離縁などについてい解説いたします。 最近の受任やお問合せの案件は、①外国人の子どもを養子・特別養子にしたい ②日本人の養子と離縁したいです。このような問合せは確実に増加しております。 お問合せや ご質問は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。 なお、返信希望のお問合せには、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。

 

  養子縁組とは血縁関係がない者や親子関係がない者の間に親子関係を発生させることです。 この養子縁組で生じた親子はそれぞれ養親・養子(養女)と呼びます。 養子は、縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得すると規定されていますので、相続に関して実子と同様の権利が生じます。 但し、戸籍法の定めるところにより届出のなされた養子でなければ、相続権は認められません。 成人に達した者は養親になることが出来ます(民792条)。 但し、尊属と年長者を養子にすることは出来ません(民793条)。

 

養子縁組には次の2通りがあります。

1.普通養子(契約型)

  普通養子とは、次に説明する特別養子以外の養子のことですが、一般的に養子と言った

  場合は普通養子のことを言います。 普通養子は、実父母の親子関係がそのまま維持さ

  れますので養父母、実父母双方の相続人となり、また、二重の相続権を持つ場合が生じ

  ます。 例えば、Aが自分の子であるBの子C(Aの孫)と養子縁組をした場合にBがAより

  先に亡くなるとAの相続に関しては、Cは子としての相続権と代襲相続権を持つことにな

  ります。

2.特別養子(決定型)

  民法817条2①には「家庭裁判所は民法817条3から817条7までに定める要件があるとき

  は、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組をさせること

  が出来る」とされています。 このように特別養子は、縁組成立の時から実父母との間

  の親子関係及びそれから生じる権利義務関係が消滅することになりますので実父母の相

  続人とはなりません。

 

養子・養親になれる人

 養子をとることが出来るのは、自分より年齢が上でなければ、あるいは自分の尊属でなければ、だれでも可です。 養親となるには成人に達していなければなりませんが未成年でも結婚(成年擬制)していれば養親になることが出来ます。 また、養子となる者には年齢制限はありませんが、未成年者を、後見人が被後見人を、養子にするときは家庭裁判所の許可が必要です。 但し、自分の孫等直系卑属を養子とする場合には未成年者でも家庭裁判所の許可は不要です。 また、配偶者のある者が養親となる場合、以前は配偶者とともに養親にならなければならなっかたものですが、現在では配偶者の同意があれば単独で養親となれます。 但し、未成年者を養子とする場合には、配偶者とともに養親にならなければならないことになっています。

 

相続税における養子の取り扱い

 民法では、養子の数については制限する規定はありません。 養親となる者と養子になる者が合意すれば、何人でも無制限に養子にすることが出来ます。 しかし、そのことを利用して、相続税の回避を図る事例が多くみられます。 つまり、相続税は法定相続人の数が多いほど、税額が低くなる仕組みになっているからです。 そこで、課税の公平の見地から、養子の人数制限が相続税法に規定されました。 つまり、相続税の計算の時のみに人数が制限されるという事です、法定相続人の権利が制限される訳ではありません。 その内容は、被相続人に実子があるときは1人、実子が無いときは2人までの制限です。 一方、相続税法で養子の人数制限が不適用になる場合が4通りあります。 例えば特別養子縁組による養子などは、不適用の代表例です。 なおこれとは逆に、人数制限以内の養子であったとしても不当に相続税の負担を軽減させる結果になると認められる場合には、当該養子は相続税計算時の法定相続人の数に参入されないという規定が相続税法63条にあります。

 

 養子離縁

 養子離縁は養親と養子との協議で行います(民法811条1項)。 養子縁組は養子が満15歳以上であれば、単独で養親との離縁協議をすることが出来ます(民法811条2項)。 但し、養親が死亡した後に、養子縁組を解消したいときは、家庭裁判所の許可が必要です。 離縁の協議が出来ないときは、家庭裁判所に離縁調停を申立てます。 この調停は、養親と養子双方が離縁に合意しなければなりません。 調停が成立しないときは、離縁の裁判の訴えを家庭裁判所に提起します。 裁判で離縁が認められるには、民法814条で定められた離縁原因に該当することが必要です。

民法814条の離縁原因とは、

1.他の一方から悪意で遺棄されたとき

2.他の一方の生死が3年以上明らかでないとき

3.その他縁組を継続し難い理由があるとき

   ①重大なが虐待や侮辱

   ②性格の不一致

   ③養親が精神病で子の養育が不可能

   ④養子の浪費、犯罪行為 など

 

養子縁組の取消し原因

 ①養親が未成年者である縁組の場合、(民法804条)

 ②養子が尊属又は、年長者である場合、(民法805条)

 ③後見人と被後見人の家庭裁判所の許可がない場合、(民法806条)

 ④配偶者の同意のない場合、(民法806条の2)

 ⑤子の監護をすべき者の同意がない場合、(民法806条の3)

 ⑥養子が未成年者である場合の家庭裁判所の無許可縁組の場合、(民法807条)

 ⑦詐欺または脅迫による場合 (民法808条)

 

養子縁組取消の効果

 養子縁組が取消されると、婚姻の取消しの規定が準用され、縁組が取消されると、その効力は将来に向かってのみ生じます。 次に縁組によって得た財産については、善意の当事者は、その得た財産のうち現に利益を受けている限度で返還すれば足りるのに対して、悪意の当事者は、その得た財産の全部に利息を付して返還しなければなりません。 かつ、悪意の当事者は善意の当事者にたいして、損害賠償責任を負うことにもなります。  また、離縁の場合と同様に、養子の氏は取消によって縁組前の氏に戻ることになります。 もっとも配偶者とともに養子をした養親の一方のみと取消しした場合には、離縁前の氏には戻らず、離縁の際の氏のままとなります。

 縁組から7年間が経過した後に、縁組を取消し、氏が縁組前のものに戻ったような場合には、取消の日から3ヶ月以内に戸籍法に従って届出をすることにより、取消の際の氏を使用し続けることが出来ます。

 

養子縁組Q&A

Q1認知した自分の子と養子縁組することは可能でしょうか?

A1実子は、「卑属」かつ「年少者」ですから、実子を養子とすることは、尊属養子

 の禁止・年長者養子の禁止(いずれも民法793条)に抵触しません。 但し、養子

 縁組の趣旨は、養子に嫡出子の身分を取得させること(民法809条)にありますか

 ら、既に嫡出子の身分を取得している子を養子とすることには、実益がなく、これ

 を認める必要はありません。 一方、非嫡出子である実子を養子とすることは、養

 子にすることで、嫡出子と同等の身分を取得できますので、意味のあることです。 
 子が未成年者であっても、養子縁組には家庭裁判所の許可は必要ではありません。
  民法798条但書によれば、「自己の直系卑属を養子とする場合」「配偶者の直系卑

 属を養子とする場合」には裁判所の許可は不要となりますが、非嫡出子である実子

 を養子とすることは前者に該当します。
 【民法関連条文】
 第793条(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)
 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
 第810条(養子の氏)
 養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻 

 の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。

 

Q2未婚で産んだ子のある女性が結婚して、新しい父親と養子縁組をする際、実母も養

 子縁組する形しかとれないと市役所に説明されました。市役所による手順は、母親     

 がまず結婚入籍、その後養子縁組として子どもを夫婦の籍に入れるという説明でし

 た。 実子をどうして母親の養子にしなければならないのでしょうか?

A2実子の養子縁組というのは、実子が養子に代わってしまうことではありません。

 子は、実子且つ養子になるので、実子でなくなるわけでありません。
 普通養子縁組をした場合は下記のように、子の戸籍には養父母の記述が増えるだけ

 です。 
(子の戸籍)
【父】(認知した父の氏名/あれば)【続柄】長男/長女
【母】(あなたの氏名)
【養父】(結婚相手の氏名)【続柄】養子/養女
【養母】(あなたの氏名)
 実母が非嫡出子と養子縁組するのは、嫡出子扱いにするためです。 

 これが特別養子縁組(家庭裁判所の許可が必要/6歳未満に限る)だったらもっと大

 変なことになります。 もしも実母の結婚相手と特別養子縁組して、実母と特別養

 子縁組しないと、なんと実母とその子の親子関係が消滅し、再婚相手だけが親の義

 務権利を持つことになってしまいます。 もし、養子縁組しないで再婚相手筆頭者 

 の戸籍に入れたければ、家庭裁判所で「子の氏の変更許可」をもらい、役所で「入 

 籍届」を出せばいいだけです。 

 

 

Q3普通養子縁組ですが、成年被後見人は養親になれますか?

 

A3特に民法で規定されていませんので、成年被後見人は養親になれます。

 

Q4未成年者が婚姻をして成年擬制を受けた、離婚した場合は養親となれますか?
A4成年擬制になったものは離婚しても成年として扱われます、養親になれます。

 

Q5配偶者のある者がその配偶者の非嫡出子である未成年者を養子とする場合、その   

 養子となる者が自己又は配偶者の直系卑属でない場合は、家庭裁判所の許可が必要

 ですか? 配偶者とともに縁組をしなければなりませんか?

A5直系卑属でない場合は家庭裁判所の許可が必要です。 配偶者とともに縁組する必

 要があります。

 

Q6特別養子の養親が双方死亡した場合は、未成年の養子に後見開始の審判が開始さ 

 れますか?

A6民法818条、成年に達しない子は、父母の親権に服する。子が養子であるとき

 は、養親の親権に服する。 民法838条、後見は、次に掲げる場合に開始する。
  未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しない 

 とき。
  特別養子縁組・普通養子縁組を問わず、養親の死亡によって実親に親権が戻ると 

 いうことはありませんので、養子が未成年なら未成年後見が開始します。
 民法839条、未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指

 定することができる。 従って、必ず審判開始になるというわけではありません。

Q6実父母がいる者の未成年者の養子縁組で養親が1人しかいない場合、その養親が 

 死亡すると親権は実父母に戻りますか? それとも未成年後見が開始されますか?  

 離縁の場合とは違いますか?

A6実親の親権が回復する離縁とは異なる扱いですね。 実父母がいる者の未成年者

 の養子縁組で養親が1人しかいない場合、その養親が死亡すると親権は実父母には 

 戻りません。 実親の親権は復活せず、後見が開始するというのが通説です(後見 

 開始説、東京高決昭56・9・2)。 養親が死亡しても、養子縁組の効果は解消し

 ないため(民法811条6項参照)、実親の親権は復活せず、未成年者に対して親権

 を行う者がない場合に該当し(838条1項)、後見が開始するという流れです。

Q7普通養子(未成年者)の法定代理人は、実親・養親のどちらになるでしょうか? 

 また、養子縁組が複数行われた場合(転養子)の場合の当該養子の法定代理関係はど

 のようになるのでしょうか?

A7民法818条2項は、「子が養子であるときは、養親の親権に服する。」と規定し

 ていますから、養子の法定代理人は、養親です。 転養子の場合については、明文

 の規定はありませんが、最新の養子縁組における養親が法定代理人になるとの解釈

 です。

 

 

 養子縁組判例

神戸家裁2012(平成24)年3月2日審判 第三者の精子提供を受けて妻が出産した子

 との特別養子縁組

申立人夫は、2007年に性別の取り扱いを女性から男性へ変更する旨の審判を受け、2008年に申立人妻と結婚をした。 その後、両者は第三者の精子提供を受け、2010年に、申立人妻が子を出産した。 同夫婦は、当該子を継続して監護・養育している。 そして、2011年に同夫婦は、当該子を特別養子とする特別養子縁組成立の申立て神戸家庭裁判所に対して行った。
[決定の概要]
 本決定は、特別養子縁組の各要件について、これまでの経緯等の事実を認定した上で、民法817条の3から同上の6及び8の規定する要件を全て充たすと判断した。なお、民法817条の6(実父母の同意)については、「精子提供者の同意はないが、精子提供者は、事件本人(子)を認知しておらず、法律上事件本人の父といえないから、その同意は不要であると解される」とした。 さらに、同条の7の要件(子の利益のための特別の必要性)については、「事件本人の出生の経緯やその後の監護状況等に照らすと、本件特別養子縁組には、事件本人と精子提供者との親子関係を断絶させることが相当であるといえるだけの特別の事情があり、事件本人の利益のために特に必要であると認められるから、その要件を充たすといえる」と判断した上で、申立人らの特別養子縁組成立の申立てを相当とし、同人らの間に特別養子縁組を成立させた。 

福岡高裁2012(平成24)年2月23日決定・6歳になる前から監護と特別養子縁組
 抗告人X夫妻は特別養子縁組を視野に入れて、平成17年に長崎県の遺児センターに里親登録をし、平成18年に事件本人(当時3歳9カ月)を紹介された。その後、X夫妻は事件本人との間で、面会、外泊による交流を続けた。上記センターは、平成20年にX夫妻に対し、里親委託決定をする予定だったが、夫婦の一方の入院により延期され、上記センターは平成21年に6歳2カ月の事件本人につき里親委託決定をした。事件本人は本件特別養子縁組申立て時(平成22年)には、7歳11カ月になっていた。 原審は民法817条の5ただし書の「引き続き」の監護がないとして申立てを却下した。X夫妻は抗告した。
[決定の概要]
 民法817条の5但書の趣旨は、特別養子となる者が6歳未満の時から養親となる者に現実に監護されている場合には、その時から事実上の親子関係があるものといえることから、年齢要件の緩和を認めたものであるとした。 本件の場合、①X夫妻が特別養子縁組を利用することを想定して里親登録をし、事件本人と交流を深めていること、②平成20年に里親委託決定を予定していたこと、③X夫妻の一方の入院のため同決定が延期されたものの決定が取りやめとなったものではないこと、④X夫妻の一方が日常生活に復帰後、里親委託決定を待ち望み、事件本人と従前以上の頻度ないし密度で交流を持っていたこと、⑤事件本人が平成19年頃からX夫妻のことを「お父さん」「お母さん」と呼ぶようになっていたこと、⑥事件本人がX夫妻宅を自宅と認識し始め、X夫妻宅での生活を望むようになっていたこと、⑦X夫妻も事件本人に対し父母として接して良好な関係を築いていたこと、⑧本件機関(上記センター)も、事件本人とX夫妻が特別養子縁組を行うものと認識し、そのように指導していたことを指摘し、これらの事実によれば、事件本人が6歳に達する以前から、事件本人に対して、相当程度、直接的な監護を行う機会があり、X夫妻のみならず、本件機関、そして本件施設においても、X夫妻が里親として事件本人に接しているものと認識していたことを認めることができるのであり、X夫妻の一方が日常生活に戻り、事件本人と密接な交流を再開した平成20年頃からは、X夫妻らによる事件本人の監護がされていたものというべきであるとして、民法817条の5但書の要件を満たすものとして特別養子縁組を成立させた。

名古屋家裁2010(平成22)年9月3日判決・認知症罹患の養親の意思有無
  高齢の本牧花子は、平成15年頃、体力が衰え、長女桜子夫婦や同夫婦の子○○子の世話を受けるようになり、平成16年頃から、○○子との養子縁組を望む発言をした。他方、本牧花子は、二男夫婦から世話を受けることもあり、二男の妻に対しては自分の世話を同人に依頼する発言をしていた。
 本牧花子は、平成19年1月、高血糖性昏睡のため甲病院に入院し、認知症、糖尿病等と診断され、視力・聴力・言語とも相当低下し、歩行、食事、更衣、入浴、洗面、排泄につき全面的に介助が必要な状態であった。転院先の乙病院においても、認知症、糖尿病等と診断され、寝たきり、胃瘻からの経腸栄養、失語の症状を呈し、担当医と意思疎通をすることができない状態であった。
この状況下で、本牧花子の夫太郎が桜子に対し、本牧花子の意思に基づき本牧花子と○○子間で縁組をする旨伝え、桜子夫婦及び○○子がこれを承諾するに至った。縁組届の「養親になる人」欄に本牧花子の夫太郎が本牧花子の署名押印をし、「養子になる人」欄には○○子が署名押印して縁組届が作成され、平成19年11月、○○子らによって提出された。本牧花子の後見人Xは、○○子に対し、縁組無効確認の訴訟を提訴した。
[判決の概要]
(本牧花子の)行動や、同人の当時の年齢・心身状態からすると、同人の弁識力・判断力等にかなりの衰えがあったと認められ、その場の状況次第では、意思の如何とは別に、たやすく身近な人の意向に沿う発言をするような精神状態にあったと推認できる。また、本牧花子が甲病院に入院した後においては、○○子や桜子夫婦は、太郎を通じて本牧花子の縁組意思を確認するのみであったというのであり、実際に太郎が本牧花子の縁組意思を確認した事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、本牧花子が被告との養子縁組を希望する発言をしたからといって、真に被告との養子縁組の意思があったと言うことはできない。
のみならず、上記認定事項に照らせば、本牧花子は、自ら本件縁組届に自署押印しておらず、太郎が本件縁組届の「養親になる人」欄の所定事項及び梅の署名押印を行ったにすぎず、本牧花子が、本件養子縁組に当たって、太郎に本件縁組届の署名押印の代行を依頼した事実や、本件養子縁組を追認した事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
しかも、本牧花子は、本件養子縁組の約10カ月前の平成19年1月19日に高血糖性昏睡に陥って甲病院に入院し、同年6月18日に乙病院に転院しているところ、認知症等と診断され、寝たきりのため全面的に介助が必要な状況にあり、医師等の問いかけに反応せず、呼名に「はー」と応えるのみで、意味不明の奇声を発し、意思疎通が可能な状況ではなかったのであるから、本件養子縁組を行うに足りる意思能力があったとは認め難い。 

 

佐賀家裁2009(平成21)年8月14日審判・神職を世襲を主目的とした未成年養子
  申立人(当時85歳)の配偶者の生家は、〇〇神宮のいわゆる社家として、代々神宮を輩出してきた家系であり、申立人の配偶者も社家を承継し、〇〇神宮の大祭の支援や地域活動に従事してきた。 申立人ら夫婦は、実子がいないため、将来、申立人の姪の子の二男である未成年者(10歳)に社家を承継してもらうため、養子としたいと希望している。 未成年者の両親は養子縁組を承諾したが、縁組後も未成年者と一緒に生活し監護養育したいと考えている。 申立人は配偶者とともに、家庭裁判所に養子縁組許可の申立てをした。 なお、申立て後に申立人の配偶者が死亡したため、配偶者の申立てに係る部分は事件が終了している。
[審判の概要]
 神職を世襲する社家の承継を主な目的とする養子縁組について、未成年者が本件養子縁組により相続等を通じて申立人所有の不動産を譲り受けることになるという財産上の利益がないではないものの、将来は、上記不動産に居住し、社家を継いでその活動に従事することが強く期待されることになり、未成年者の将来をかなり制約する可能性が生じること、実父母がこれを承諾し、未成年者も一応了解する意向を示しているとしても、未成年者は10歳であり、自分の将来設計について的確に判断し得るだけの能力を備えているとはいえず、本件養子縁組の目的や社家の役割等を十分に理解するには至っていないこと、今後も引き続き実父母の下で適切に監護養育されることが期待される状況にあることなどの事情に照らすと、現時点において本件養子縁組は未成年者の福祉にかなうとはいえず、これを許可することはできない。よって、本件申立ては却下する。

 

東京高裁2009(平成21)年8月6日判決・認知症の老人のした養子縁組届出
 甲女は、平成16年、全財産を甲女の亡姉の長男であるX男の義理の姉乙女に遺贈する旨の公正証書遺言(①遺言)を作成したが、平成18年9月には、甲女とその亡夫の姉の孫であるY女に全財産を相続させる旨の遺言書(②遺言)を作成した。しかし、②遺言は、遺言書としての様式を備えていない無効のものであった。
平成18年11月以降、甲女はアルツハイマー型老年性痴呆あるいは痴呆疑と診断された。 さらに平成19年1月、甲女はY女と養子縁組をした。この縁組がなされる際、甲女に対して、①遺言についての説明がなされたり、①遺言の内容と養子縁組の両者を対比して甲女の意思の確認がなされたりすることはなかった。
なお、甲女の法定相続人はX男のみであったが、上記養子縁組がなされることにより、法定相続人はY女のみとなった。
X男は、上記養子縁組は、甲女の縁組意思を欠き無効であるとして、養子縁組無効確認訴訟を提起。原審がこれを認容し、Y女が控訴した。
[判決の概要]
 甲女には、老年性認知症の症状が出る前から、乙女に全財産を譲りたいという意思と、Y女に全財産を譲りたい意思とが併存しており、どちらか一方が真意であるとは言えない状態であったと認定した上で、このような状況からすると、上記養子縁組届は、甲女の二つの相矛盾する意思のうちの一つに基づくものであり、老年性認知症に罹患して著しい記銘力・記憶力障害が生じている甲女については、「他の考えが存することを注意喚起した上で、自らの判断により矛盾する二つの意思のいずれかを選択するよう促すことがない限り、相矛盾する二つの意思のいずれかを優越した意思として認めることはできない状況にあった」として、結局、上記養子縁組は、甲女の縁組意思を欠き無効であるとした。

青森家裁2009(平成21)年5月21日審判・実父の同意権濫用
 平成16年、1歳10カ月のAを里親委託された申立人夫婦は、同年にAとの特別養子縁組の審判を申立てたが、Aの実父の同意が得られなかったことからいったん申立てを取り下げた。 申立人夫婦はその後もAを生育し、平成20年に、再度Aとの特別養子縁組の審判を申立てた。 なお、Aの実兄も、児童相談所への通告や乳児院への入所措置等が繰り返されていた。 Aの実父母は離婚し、実父は、再婚者との間に子をもうけているが、その子についても児童養護施設への入所や里親委託等がなされていた。 一方実母は、アルバイト等をしつつ男性と同棲するなどの生活を送っており、Aの特別養子縁組に同意していた。
[審判の概要]
 申立人夫婦は、経済的・社会的に安定していること、共にAに対する十分な愛情に裏付けられた強い養育意欲を示しつつ、Aに対して適切な監護養育を継続していること、及び、Aは1歳10カ月の時から現在まで申立人夫婦のもとで5年以上の間にわたって順調に生育していることを認定した上で、実父母の各実情からすれば、子の利益のための特別の必要性(民法817条の7)は認められるとした。 さらに、実父の同意がない点については、Aの実兄の状況や実父の再婚相手との間の子の状況、実父がA引き取りの手続を何らしていないこと、実父の照会書等への不応答、審判期日への不出頭などの事実からすれば、実父の不同意は同意権の濫用に当たるとして、子の利益を著しく害する事由がある場合(民法817条の6但書)に該当するとした。

 

大阪高裁2009(平成21)年5月15日判決・○原告適格○養子縁組意思
 Aは、夫死亡後、隣人のBに身の回りの世話をしてもらっていた。 Bの長女Y(控訴人)は、Bと同居しており、隣人としてAと面識はあったものの、Aとの交流は全くなかった。 平成14年、Aは持病が悪化して入院したが、入院中に、Aを養親、Yを養子とする縁組届が作成され、Bが本件縁組届を役所に提出した。 Aの入院中、BがAの世話をしており、Yは何回か見舞いに訪れたのみであった。 Aの退院後も、Aの身の回りの世話は専らBが行っており、Yが行うことはなく、YがAの家に泊まったこともなかった。 また、Yは、Aの親族関係を把握しておらず、同人から死後の祭祀について依頼されたこともなかった。 平成16年、Aは再入院し病院で死亡したが、その間、YがAを見舞うことはほとんどなかった。 B又はYは、Aが死亡した翌日にA名義の貯金口座を解約し払戻しを受けており、翌年1月には、Aの預金等の口座を解約し払戻しを受け、同年2月には、YがA所有不動産につき相続を原因とする所有権移転登記手続を行っている。 Aの夫とその前妻との間の子C及びDは、Aの相続財産管理人の選任を求める審判を申立て、X(被控訴人)がAの相続財産管理人として選任された。Xが、Aの相続財産法人を代表してYに対し、Aを養親、Yを養子とする養子縁組の無効確認訴訟を提起したところ、原審は、本件訴訟の適法性を認めたうえ、本件縁組は、縁組意思を欠き無効であるとして、Xの請求を認容した。 これに対し、Yが①相続財産法人は養子縁組無効確認訴訟の原告適格を有しない、②A及びYには縁組意思があったなどと主張し控訴した。
[判決の概要]
 ①について「相続財産法人は、相続開始時における被相続人に属していた一切の権利義務及びその他の法律関係を承継するのであるから、この面では、被相続人の権利義務を承継した相続人と同様の地位にあるということができる」「Aの相続財産法人である被控訴人は、本件養子縁組が無効であるか否かによって相続に関する地位に直接影響を受ける者として、本件養子縁組の無効確認を求める法律上の利益を有するというべきであり、原告適格を有する。」 ②について「民法802条1号にいう「縁組をする意思」(縁組意思)とは、真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思をいうものと解すべきであり、したがって、たとえ縁組の届出自体について当事者間に意志の合致があり、ひいては、当事者間に、一応法律上の親子という身分関係を設定する意思があったといえる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として用いられたもので、真に親子関係の設定を欲する意思に基づくものでなかった場合には、縁組は、当事者の縁組意思を欠くものとして、その効力を生じないものと解すべきである。 そして、親子関係は必ずしも共同生活を前提とするものではないから、養子縁組が、主として相続や扶養といった財産的な関係を築くことを目的とするものであっても、直ちに縁組意思に欠けるということはできないが、当事者間に財産的な関係以外に親子としての人間関係を築く意思が全くなく、純粋に財産的な法律関係を作出することのみを目的とする場合には、縁組意思があるということはできない。」「本件養子縁組による親子関係の設定は、Bの主導のもと、専ら、身寄りのないAの財産を控訴人に相続させることのみを目的として行われたものと推認するほかはない。 以上によれば、本件養子縁組は、当事者の縁組意思を欠くことにより、無効であるというべきである。」

 

神戸家裁2008(平成20)年12月26日審判・祖母が代理出産した娘夫婦の子と娘夫 

 婦との特別養子縁組
 A及びBは婚姻した夫婦であるが、Bは身体上の理由から出産することができなかった。 そこで、Bの実母CがAの精子とBの卵子を受精させた胚の移植を受けて妊娠し、Dを出産した(以下、「本件代理出産」という。)。Bは、Dの出生に合わせて母乳を出すための薬を飲み、Dに与えた。また、AとBは、出産後まもなくDを引き取り、以後約10ヶ月、Dを監護養育してきた。A及びBは、Dとの特別養子縁組を申し立てた。
[審判の概要]
 代理出産の法制度については検討の余地があるとしつつも、出生した子と血縁上の親との間の関係については、出生した子の福祉を中心に検討するのが相当との見解を示した上で、本件においては、AB夫婦の養親としての適格性及びDとの適合性にはいずれも問題がないこと、ABはDの血縁上の親であり、Dを責任を持って監護養育していく真摯な意向を示していること、C夫婦はAB夫婦がDを責任をもって育てるべきであると考えており、Dを自身らの子として監護養育していく意向はないことなどの事情をあげ、ABとDとの特別養子縁組申立てを認めた。

大阪高裁2007(平成19)年9月20日決定・後見人が直系卑属の未成年被後見人を養

 子とする
   Y=X(申立人)
    |
    A=B(その後、AとBは離婚。Aが親権者となるが、虐待で親権喪失)
     |
     C
 X(申立人)の長女Aは、Bとの間にCを出産した。AとBは、Cの親権者をAと定めて協議離婚したが、AはCに対する児童虐待により親権を喪失し、XがCの未成年後見人に選任された。 その後、Xは、Cを養子とすることの許可を求める審判を申し立てた。 原審は、「本件養子縁組が許可されても、当分、Cの生活の実態はほとんど変わらないというべきであり、現時点においてあえてXとCとの間で養子縁組をすべき必要性は乏しい。 むしろ、BがCの養育意欲を示していることやCの年齢からすれば、現時点においてBが親権者となる余地を閉ざす形にしてしまうことは、相当とはいえない。 これらの事情を考慮すると、本件養子縁組が未成年者の福祉に適うものということはできない」として、Xの申立を却下した。 Xは、抗告した。
[決定の概要]
 後見人と被後見人の縁組につき家庭裁判所の許可を必要と定める民法794条は、親権者と同様の財産管理権を有する後見人が被後見人と縁組することを認めると、後見人の財産管理に対する民法の厳格な規制を回避することが事実上可能となることから、その危険を排除する趣旨で設けられた規定と解される。 次に、民法798条は、未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得るべきことを定めているが、同条ただし書きは、未成年者が自己又は配偶者の直系卑属であるときは、そのような縁組が当該未成年者の福祉に反するようなことは通常生じないであろうとの立法政策上の判断から、家庭裁判所の許可を不要とする旨定めたものである。
 本件は、Xが自己の直系卑属であるCを養子とする場合であるから、Cの福祉確保の観点から本件縁組の当否を審査する必要がないことは明らかであり、民法794条の規定の趣旨に従い、Cの財産的地位に対する危険を排除するという観点から吟味を加えれば足りるのであって、そのような財産管理上の問題が認められない場合には、本件縁組に許可を付与するのが相当というべきである。 よって、原判決を取り消し、養子縁組を許可する。

 

宇都宮家裁2007(平成19)年7月20日審判・本国法を日本法とした上、イラン法の

 適用が公序に反するとした
 イラン人男性Aと日本人女性Bの夫婦が、Aの妹DとDの元夫E(ともにイラン人)の未成年子Cを日本国内で養育している。 D(イランでの離婚判決で、Cの養育権を取得)は、ABとCの養子縁組を強く望んでいる。 Eは所在不明である。 ABは共にCとの養子縁組を求めて本申立に及んだ。
[審判の概要]
 イランは宗教により身分法を異にする人的不統一法国であり、所属する宗教如何によって当該イラン人の本国法を決定しなければならないと解されるところ、Cの所属する宗教は未だ決まっていないことが認められるから、Cの本国法は、イランの規則に従い指定される法がないため、Cに最も密接な関係がある日本法であると解される(通則法40条1項前段、後段参照)。 イスラム法においては、養子縁組は認められていないので、AとCの関係においては、イスラム法の適用により、養子縁組は認められないことになるところ、このような結果は、日本国民法を適用した結果と異なる(BとCの関係においては、養子縁組が認められる)等の理由から、不当である。 したがって、AとCとの養子縁組の可否に関して、イスラム法を適用することは、公序に反するものであり、通則法42条により、その適用を否定し、日本国民法を適用し、養子縁組を許可した。

東京高裁2002(平成14)年12月16日決定・民法817条の6但書及び同条の7の要件
 YはAと婚姻し、BCをもうけた後、平成12年1月1日にDを出産したが、そのころYとAとは事実上の別居状態にあったことから、Aは、Dが他の男性の子ではないかとの疑念を有しており、Dを特別養子に出すことに積極的であった。 Yは渋々これに同意し、同月24日、DはX夫婦に預けられ、監護養育された。 X夫婦による監護養育に特段の問題は見られない。 その後Yは、特別養子縁組の同意撤回書を家庭裁判所に提出し、平成13年12月3日に受理された。 X夫婦がDを特別養子とする旨を申立てたのに対し、原審は、①Yが安定した監護環境を用意せず、かつ②明確な将来計画を示せないのでは、Dの生活を不安定にし、健全な成長に多大な悪影響を及ぼすので、民法817条の6但書の事由があり、同法817条の7等の要件も満たすとして、申立を認容。Yが即時抗告。
[決定の概要]
 抗告審は、次の理由で原決定を取消し、差戻した。
民法817条の6但書「その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは、虐待、悪意の遺棄に比肩するような父母の存在自体が子の利益を著しく害する場合をいうところ、上記①及び②をもって直ちに上記但書の事由にあたると結論付けることはできない。 民法817条の7の「父母による養子となる者の監護が著しく困難」である場合とは、虐待や著しく偏った養育をしている場合を指し、「その他特別の事情がある場合」とは、これらに準じる事情がある場合をいうところ、上記①及び②のみで同条の「子の利益のために特別の必要がある」ということはできない。

 

 

 

 

 


 

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コメント: 2
  • #1

    関田桂代子役所 (日曜日, 25 2月 2018 05:27)

    裁判所に養子縁組の書類があると思いますが、勝手にしょうだくなしで親権者養子縁組書いた人がいるの取り消ししてほしいです!子供もやがっているのでわかってもらいたいです。自分もやだです!相手の気持ちも産んだ親がいるのに養子縁組にされて困ります!やな気持ちなりませんか、。

  • #2

    青柳行政書士 (日曜日, 25 2月 2018 09:31)

    岡田佳代子さん

    ご相談内容の詳細が解りませんが、内容推測で回答します。
    1.養子縁組届の書類は市役所にあります。 
    2.養子になる者が未成年の場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
      即ち、産んだ親の同意が必要になりますので、したがって、勝手に養子縁組はできま  せん。  もし、勝手に養子縁組をされた場合は、家庭裁判所に養子縁組無効確認調  停の申立をします。 養子縁組無効確認の調停の方法は、家庭裁判所にご相談下さ 
      い。