ピケティ教授の「21世紀の資本論」

 「横浜のアオヤギ行政書士事務所」が現在国際的に話題になっている本「21世紀の資本論」につき解説します、ご意見やご質問は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。 

 

 

   フランス人経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)教授が書いた『21世紀の資本論(Capital in the Twenty-First Century)』が今、特にアメリカで注目を集めているようです。 小職は、日本語翻訳書がないことから、全てよんでおりませんが、この本は、700ページ程の分厚い経済専門書で、完読するのは難解と言われています。 

 『資本論』は大きく分けて3つの部分からなります。

第1は、所得と富の歴史的分析

第2は所得と富の不平等が21世紀に拡大していくという予測、

第3は拡大する不平等をくいとめるための政策提言です。 

『資本論』の大胆な政策提言(富裕層から富を税金で奪い取れ←小職も賛成!)は、非常に単純に解り易いものです。 リーマンショックの2008年に始まった世界金融危機以降、一般人は失業や低賃金など経済苦境を長く経験してきました。 (小職も、例にもれず、日本航空の倒産など個人投資家としても損出を出しました。) 同時に、金融危機を引き起こした張本人であるはずの、投資銀行の最高経営責任者(CEO)達が一般労働者の1000倍近い超高額報酬を得ている矛盾が存在しています。 そして、多くの人びとが資本主義そのものに疑問を感じ始めた丁度その時、ピケティ教授の『資本論』が出版されました。 それは多くの人びとが感じていた貧富格差拡大の事実をデータで裏打ちし、しかも不平等是正のための政策提言を積極的に行ったのです。 すなわち、「富裕層の所得と富に高い税金をかけて奪い取れば不平等は解決するのだ」と。  そのメッセージはあっという間に、近年ますます顕著になってきた米国政治の右派・左派対立の火種に油を注ぐことになりました。  ポール・クルーグマン米プリンストン大学教授やジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授などの左派有名人がピケティ教授の『資本論』を褒め称えると、右派はさまざまな側面から攻撃を始めました。  例えば、右派は1980年以降の不平等拡大を示すデータの不備を指摘しています。 ただし、これはピケティ教授以前に多くの研究者が異なる資料を使って示していた点であり、今後事実として覆る可能性は小さいと思われます。 

 『資本論』は、数世紀にわたる膨大なデータ分析に基づいて、産業革命以降の所得と富の変動を分析した研究です。 それによると、18-19世紀のヨーロッパは不平等が非常に大きな社会でありました。 硬直的な階級社会の下で、富は少数の富裕家族の手に集中していました。(富/所得)比率は高く、産業革命以降賃金は少しずつ上昇していくが、不平等社会はそのまま存続しました。

 不平等な社会構造は、20世紀に起こった2つの世界大戦と大恐慌によって初めて崩れることになります。 戦争による資本破壊、戦争をファイナンスするための高税率、高インフレ、企業倒産、そして戦後多くの先進国が採用した福祉政策によって(富/所得)比率は低下し、戦後は18-19世紀とは大きく異なる比較的平等な社会が生まれてきました。

 

 日本は長年にわたって比較的平等な社会を誇っており、ピケティ教授の母国フランスとともに、米国と比べて貧富の格差がかなり小さかった。 ただ、教授は向こう数十年にわたり、日本でも格差が広がると主張しています。 こうした結論は、安倍晋三首相の政策議論に一石を投じました? 法人税率の引き下げや消費増税など、安倍首相の推進する成長戦略が格差拡大を後押しする可能性が大きくあります。  同志社大の浜矩子教授の「あほのミックス」⇒「ドあほのミックス」になる懸念が強くあるということです。     

 ピケティ教授の主張の核心は、21世紀には小さな経済エリート集団に富が集中するため貧富の格差が拡大するというものです。 

 同書には19世紀までさかのぼった日本の税務書類などから集められたデータが含まれています。

 

格差の主な原因 

 OECDの調査で、国家間のグローバル格差だけではなく、先進国において、国内の格差が拡大して、無視できないと指摘されています。 格差の主な原因は、最近までは、賃金の格差であると考えられていましたが、本当は、物的資本の格差の資産格差であることを、ピケティ教授が実証的にしましました。 20世紀の後半に格差が縮小したように見えたのは、福祉国家化のせいで、実は、ずっと不平等拡大の圧力が強かったという、見識で、膨大な実証研究を実施しています。 ピケティ教授の議論の焦点は、市場経済がまともに機能している社会でも、何もしなければ、不平等が拡大するということです。

 

格差は新しい問題ではない

 欧州との文化的相違にかかわらず、日本では20世紀初頭に欧州と同じくらい高い水準の格差が存在していました。 ここでは一握りの富裕層が国民所得の大部分を独占していました。 教授は著作の中で「所得構造と所得格差の両面で、日本が欧州とまったく同じ“古い世界”だったことを、あらゆる証拠が示しています」と指摘しました。 二つの世界大戦を経て格差は急速に縮小しましたが、これは戦争がエリートの富の大部分を破壊してしまったからです。

 

日本では富裕層がゆっくりと富を拡大させている

 日本では過去20年間にわたってじわりと富の集中が進んできましたが、米国ほどの大きさではありませんでした。 現在、日本の高所得層の上位1%が占める国民所得シェアは約9%に上り、1980年代の7%から2ポイント拡大しました。 フランスやドイツ、スウェーデンは日本とほぼ同じペースでシェアが拡大しましたが、米国ではこれが10-15ポイント上昇しました。 高所得層の上位0.1%が占める国民所得のシェアは今の日本では2.5%ほどで、1980年代初めの1.5%から拡大したが、またしても拡大ペースは米国に追いつきませんでした。

 

今後は日本も安穏としていられない

 ピケティ教授は、日本と欧州を取り巻く潮流を無視することはできないと警告しました。 教授によると「それどころか(日本と欧州が持つ)軌道はいくつかの点で米国と似通っており、10年から20年遅れている」といいます。 「この現象が、米国の懸念するマクロ経済面での重大事となって表面化するまで待つべきではない」と教授は指摘しました。