自力救済の禁止・まんだらけ

 「横浜のアオヤギ行政書士」まんだらけ鉄人28号盗難事件に関し、解説いたします。 まんだらけが犯人とされる男の写真を公開するという手段に対し、自力救済の禁止にあたるとする考え方があります。 あなたは、どう思いますか? ご質問やご意見は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。

 

まんだらけの対応と現状

  古い玩具や漫画などを販売する古書店「まんだらけ」(東京)が、鉄人28号の人形を万引きしたとされる男のモザイク付き写真をインターネットのホームページ(HP)に掲載していた問題で、同書店は13日、人形が返還されなければモザイクを外すとしていた従来の方針を改め、公開を中止するとHPで発表しました。

 万引きの被害届を受けた警視庁中野署が「捜査に支障が出る恐れがある」として写真を公開しないよう申し入れており、まんだらけは、警察の捜査に協力するなどの理由で公開をやめたとしています。

 まんだらけのHPでは、警告文と盗まれた鉄人28号の人形の写真、さらに同書店で防犯カメラに映った男の写真が、顔にモザイクをかけた状態で公開されていた。人形の店頭販売価格は25万円で、万引きしたとされる男が12日までに人形を返さなかった場合、顔写真のモザイクを外して公開すると表明していました。

 専門家からは「顔写真を公開すると男を脅すことは、脅迫罪に該当する可能性がある」「名誉毀損にあたる」「自力救済の禁止違反」といった不可思議な指摘が出ていましたが、泥棒に盗難品の返還を求めるのに、泥棒の片棒を担ぐような、泥棒の人権を論じることの、愚かさに「あんたら、解っているのんかいな?」と言いたくなります。 中国なら、25万円の窃盗は、直に死刑になり、シンガポールなら、鞭タタキ10回でしょう。

 13日未明に更新されたHPでは、犯人の身内らしき人物からまんだらけに電話があったものの、人形が返還されていないことを明らかにしました。 さらに「今後は証拠も十分あるので、警察の方々のお力を信じてお任せしてまいります」とのコメントですが、警察も、写真を公開して、市民の協力なしでは、犯人逮捕は、不可能でしょう。

 

自力救済の禁止とは

 民法で、自力救済を規定した条文は存在しません。 しかし通説・判例は原則禁止の姿勢をとっています。 法律構成としては、占有訴権について定めた民法202条第2項を適用します。 どのように入手されたものでも(盗んだものであっても)ひとたび占有された以上、占有権が発生し、それを自力で奪い返すと占有権侵害となって不法行為により損害賠償請求権などが相手側に発生します。 原則、これを取り戻すためには法的根拠と司法手続が必要となります。

 例外規定についての条項もありませんが、学説では自力救済に関するドイツ民法 (※注1)を参考に論じています。 判例もこれを受け、1965年の最高裁判決では、当該事件そのものについては自力救済にあたるとして棄却したものの、一般論として「力の行使は原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められ緊急やむをえない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」と述べました。 しかし判決として自力救済を容認した例はほとんどありません。

 

 一般的には、権利を有する者が、その権利を侵害された場合に、法の定める手続によらないで、自己の実力により、権利を回復・実現することをいいます。 司法制度が十分整備されていなかった時代では、侵害された権利の回復は、実力によらざるをえませんでした。 国家権力が確立され、司法制度が整備されている現在の法制度では、自力救済は禁止されるのが原則ですが、自力救済には、司法機関によるよりも、簡易・迅速に権利を保護するという長所もあるので、一定の範囲で、自力救済を承認するのが各国の法制の大勢です。

 簡単な例えを言いますと、盗難にあった自分の自転車を見つけても、直接取り返すと、法律違反になるということです。 司法手続きを得なければならないということです。 

 

 (※注1)ドイツ民法229条

 自力救済の目的をもって物を収去、破壊または毀損した者・・の加害行為は適当な時期に官憲の救済を求めることができず、かつ即時にこれをなすのでなければ請求権の実現を不能または著しく困難ならしめるおそれのある場合においてはこれを不法と
しない。
ドイツ民法859条2項

 法の禁ずる私力をもって占有者から動産を奪った者があるとき、占有者は即座に、または加害者を追跡して、実力をもってこれを取り戻すことができる。

同3項

 法の禁ずる私力をもって土地の占有者から占有を奪った者があるときは、占有者は侵奪後直ちに行為者を排除して占有を回収することができる。