危ない相続遺産

「横浜のアオヤギ行政書士事務所」危ない相続遺産につき、解説致します。 ご質問やご意見は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。 なお、返信希望のご質問には、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。 

  

 1.借金や連帯保証 

 被相続人(親など)の借金や連帯保証も相続します。 自身の借金は自己責任といえますが、自分の親、又は叔父・叔母(子供がいない場合)が借金をしている、第三者の連帯保証人になっている場合は、早く、事実関係を調査して、相続放棄か限定承認の手続きをとらねばなりません。 相続開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄をしなければ、その借金を相続することになります。 しかしながら、被相続人が、誰かの連帯保証人になっているとは思わず、また、被相続人が誰かの連帯保証人となっているか否かを調べる手立てすらない場合にまで、相続放棄を認めないのは相続人に酷と言えます。 そこで、最高裁判所はこのようなケースで相続人を救済するために、「3か月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められるときは、熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうる時から起算」すべきであると解釈し、相続放棄を認めました。 なお、最高裁判所が言う「相続財産」には負債という「負の財産」も含まれます。
 一方、被相続人に財産があり、相続人がこれを処分したり、自分の名義に換えたりした場合は、相続を承認したものとみなされますので、
連帯保証債務の存在を過失なく知らなかったとしても、相続放棄をすることはできません。  亡くなられたご家族が借金を抱えていたリ、保証人になっていると思われる場合、早急に行政書士等の法律専門家に相談して対策を検討してください。  

 

主債務者(借主)の法定相続人の場合

 被相続人(親など)の法定相続人は、借入金債務の支払い義務も相続人に引継がれます。 法定相続人であれば、生まれたばかりの子供であっても同様です。 遺産(プラスの財産)よりも負債(借金、債務)の方が多い場合には、被相続人が負っていた債務の支払い義務から逃れるため、家庭裁判所での相続放棄申述をします。 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内(熟慮期間)にしなければなりませんので、自分が第一順位の法定相続人であれば、通常は被相続人が死亡したときから3ヶ月だということになります。 

 

保証債務の法定相続人の場合

 保証債務は、通常の債務と同様に、各相続人の相続分に応じて相続されるのが原則です。 被相続人が借金の保証人となっていた場合、賃貸借契約の保証人

となっていたような場合などがこれにあたります。 もっとも、以下のように、個人的な信頼関係に基づいていて、内容が不確定で相続人にとって過大な負担となる保証債務については相続が否定されるとする見解もあります。

①身元保証: 身元保証とは、就労に際して負担する一切の債務を保証することをいい

 ます。  相続発生時に現実化していた保証債務については相続の対象となります 

 が、身元保証債務そのものは相続されません。 

②信用保証:信用保証とは、将来債務のうち、売買取引や銀行取引など継続的な取引  

 の過程で増減することが予定されている不特定の債務に対する保証をいいます。 

 限度額および期間の定めのない信用保証は、相続されないと解釈されています。   

 なお、相続発生時に現実化していた分の保証債務については、相続の対象となりま

 すので注意が必要です。

 

 連帯保証人の場合

 連帯保証人については、債権者と連帯保証人の間の「保証契約」により成立するもので、主債務者と債権者との間の「金銭消費貸借契約」とは別の契約です。 したがって、主債務者に生じた事情が保証契約に影響を与えることは無く、債務者が死亡してもその返済義務が消滅することはありません。 借主(主債務者)が債務を完済すれば保証債務も消滅します。 しかし、主債務者が死亡してもその債務が消滅することは無く、そのまま法定相続人に引き継がれます。 よって、連帯保証人の責任には全く変わりが無く、主債務者の法定相続人とともに債務の支払い義務を負うことになります。 そこで、もし連帯保証債務の支払いが不可能な場合には、連帯保証人が自己破産個人民事再生などの債務整理手続きをすることになります。 なお、連帯保証人が相続放棄などの方法によって、連帯保証債務の支払い義務から逃れることはできません。 仮に、連帯保証人が主債務者の法定相続人であり、その主債務者(被相続人)の相続について相続放棄の手続きをしたとしても、連帯保証債務が消滅することはありません。

 

債権者の法定相続人全員が相続放棄した場合

 主債務者が死亡し、その法定相続人全員が相続放棄をした場合、その債務支払い義務を相続する人はいなくなります。 この場合でも、保証契約に基づく返済義務には変わりがありません。 従て、主債務者の法定相続人全員が相続放棄した場合には、連帯保証人のみが返済義務を負い続けることになります。 そして、その債務から逃れるためには、自己破産、民事再生などの債務整理手続を取るしか方法はありません。 仮に、主債務者(被相続人)の法定相続人であり、かつ連帯保証人になっている場合には、相続放棄をした上にさらに自己破産申立をすることもあり得ます。  親の相続権が有る者が、全員相続放棄をした場合は、「相続人不存在」の状態になり、『相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。』(民法951条)のであって、『主たる債務』は消滅する訳ではありません。

 

連帯保証債務の相続Q&A

 Q1:私の父は2年前に死亡し、法定相続人は母と私でしたが、特に財産がなかった

   ため何の手続きもしていません。 ところが、昨日、金融機関から母と私に対

   し、父の連帯保証債務を法定相続分に従って支払うよう、通知がありました。 

   驚いて、その金融機関に問い合わせしたところ、父は生前、知人の借金につい

   て連帯保証人になっており、その知人が父の死後、破産したため、連帯保証人

   である父の法定相続人に請求をしたとのことでした。 母と私は支払に応じな

   ければならないのでしょうか?

A1: まず、被相続人の死亡により、法定相続人は連帯保証債務を相続するのか問題

   となりますが、最高裁判所はこれを肯定しています。 相続は、被相続人が生  

   前に有していた財産上の権利義務を包括的に承継することが原則です。 ただ 

   し、扶養請求権や雇用契約上の労務提供債務など被相続人の一身に専属する権

   利義務は相続されません。 通常の連帯保証債務は一身専属債務ではありませ

   んから、原則どおり法定相続人に相続されることになります。 そして、主債

   務者が破産するなどして弁済不能となり、期限の利益を喪失して残債務を一括

   して支払う義務を負うことになれば、法定相続人は法定相続分に応じてその債

   務を支払う義務を負います。 法定相続人が連帯保証債務を逃れるためには、

   相続放棄をするしかありません。 ただし、相続放棄は「自己のために相続の 

   開始があったことを知った時」から3か月以内に家庭裁判所に申し立てなけれ

   ばなりません。 この3か月を「熟慮期間」と呼んでいます。「自己のために 

   相続の開始があったことを知った時」を文字通り「相続開始を知った時」と解

   すれば、父の死亡を知った時から3か月以内に相続放棄をしなければならず、

   その期間を経過すれば相続放棄はできなくなってしまいます。 しかしなが

   ら、今回のケースでは、上記のように、被相続人が誰かの連帯保証人になって

   いるとはよもや思わず、また、被相続人が誰かの連帯保証人となっているか否

   かを調べる手立てすらない場合は、最高裁判所は相続放棄を認めました。 今

   回の場合も、父死亡から3か月の熟慮期間内に、父が知人の連帯保証人となっ

   ていることについて調査を期待することが著しく困難な事情があり、父に負の

   財産が全くないと信じたことについて相当な理由があるときには、熟慮期間は

   負の財産を認識した時又は通常認識しうべき時から起算されますので、まだ相

   続放棄ができることになります。 もっとも、被相続人に財産があり、相続人

   がこれを処分したり、自分の名義に換えたりした場合は相続を承認(単純承認)

   したものとみなされますので、連帯保証債務の存在を過失なく知らなかったと

   しても、相続放棄をすることはできません。

 

2.愛人の相続権

 愛人であっても、有効な遺言書があリ、愛人に相続させる旨の記載がある場合には、相続権があります。 しかし、配偶者や子供がいる場合、仮に「愛人に全財産を譲る」という遺言を残したとしても、法定相続人の権利である遺留分を侵害することはできません。 また、愛人の全てが遺言さえあれば相続できるというわけでもなく、公序良俗に反する関係にあった場合には相続することができません。 具体的に言えば、夫が職場で不倫関係に陥り、一緒に財産を築いてきた妻子に財産を譲りたいといっても、ほとんどの場合無理という事になります。  愛人という言葉の定義には様々な認識が存在することになるかもしれませんが、内縁関係とは異なり、生計を共にはしていない場合を指すことがほとんどです。 むしろ、愛人は配偶者の権利を侵しているものとして、法的には配偶者よりも弱い立場にあります。 配偶者に訴えられて、慰謝料を請求されることも少なくはありません。 不倫が公序良俗に反する行為である以上、法的に愛人を保護するわけがないのです。 とはいえ、愛人ではなく、子供であれば話は別です。 愛人当人には遺贈であってもその相続が認められないことも多いのですが、愛人の子供も配偶者の子供と同様、第一順位の相続権があります。 きちんと認知していれば、その子供は非嫡出子として、嫡出子と同じ遺産を相続することが出来ます。 まれに、愛人に遺産を相続させる目的で、愛人を養子縁組するような場合もありますが、もちろん配偶者がその事実を知ってから半年以内に養子縁組の取り消しを請求することが出来ます。 被相続人が亡くなってからの戸籍確認で、愛人が養子になっていると知ってからでも十分取り消し請求は間に合いますので、配偶者が愛人に相続を認めなければこの方法はまず無理だと考えましょう。 被相続人に配偶者がいない場合は、内縁関係として扱われ、特別縁故者になれる可能性もあります。 ですが愛人となると、確実に自分の死後、遺産を渡す事は難しいと考えましょう。 ですから、愛人に対しては、若干の贈与税を支払う必要がある程度の贈与を、生前贈与の形で数年に渡って、譲っていくのが最も確実です。 あえて贈与税を支払う形にするのは、愛人が勝手に財産を使いこんだり、勝手に預貯金などの名義変更を行ったりしたのでは、と訴えられないようにする対策です。 ただし、もちろんこの場合も配偶者などの遺留分を侵しての贈与は、配偶者が愛人に自分の相続分を請求出来ますから、遺留分を侵さないことも、なるべく安全に愛人に遺産を渡すためのコツになります。

 

 

 

 

内縁・特別縁故者の相続権

 近年、法的な婚姻関係に依らずにパートナーと生活を共にする内縁関係や、生前に親族以外の他人に身の回りの世話などを頼ったり、他人と生計を同じくしたりという特別縁故者など、被相続人を取り巻く人間関係は多様化しています。 まずは、被相続人に内縁関係のパートナーがいた場合についてですが、結論から申しますと内縁関係では基本的に相続権はありません。 民法の規定によりますと、法定相続人になれるのは配偶者、子、父母、兄弟姉妹(祖父母や孫、甥・姪に相続権が生じる場合もあり)とされています。 ここで言う「配偶者」とは「法律上の夫または妻」のことを指します。 つまり、被相続人の生前、内縁関係のパートナーがどんなに被相続人に尽くしてきたとしても、戸籍上婚姻がなければ、基本的に相続権はないということになります。 また、特別縁故者内縁関係同様、基本的には相続権がありません。 しかしながら、被相続人に身寄りがなく他に相続人がいない場合に限り、家庭裁判所に申立てを行うことによって相続権を得ることが出来ます。 生前、被相続人の介護や身の回りの世話など被相続人への貢献の事実が客観的に認められることによって相続人となることが出来るのです。 このケースに倣い、先に挙げた内縁関係のパートナーが特別縁故者として相続の申立てをすることも可能です。 内縁関係の取扱いの説明の際「基本的に相続権はない」と申しましたが、たとえ内縁であっても立場を変えて特別縁故者とすることにより、相続権を得られる場合があります。

  

3.隠し子の相続権 

 隠し子と相続非嫡出子(婚外子)の法定相続分規定の違憲判決が出て以来、「父の死後、突然見たことも聞いたこともない隠し子が出てきて相続を要求されたら困る」という意見をよく聞くようになりました。 また、相続人は、被相続人の隠し子である非嫡出子の存在を確かめようがないのではないか、という主張も聞かれます。 まず、今回の最高裁判決以前であっても、非嫡出子は、少なくとも嫡出子の半分の相続分がありましたので、隠し子が相続を要求できること自体には以前から変わりありません。 ただ、要求できる額が増えたというだけです。 つぎに、隠し子の存在を確かめることは可能です。戸籍を見ることで確認できます。 父の隠し子の場合、認知していなければ、戸籍に何ら記載はありませんが、この場合そもそも相続権がありません。 認知していれば、いわゆる非嫡出子として相続権があります。 そして、非嫡出子は、父の戸籍の身分事項欄に、認知した旨が記載されていますので、ここを見れば父の隠し子たる非嫡出子の存在を確かめることができるのです。 ただし気をつける必要があるのは、父が認知した後、自分の戸籍を移動していた場合(婚姻、本籍の移動など)、認知したことがある事項は、新しい戸籍に移記されません。    したがって、この場合には、遡ってすべての戸籍を確かめる必要があるのです。 母の隠し子の場合は、通常、非嫡出子は出生時の母の戸籍に入りますので、戸籍を見ればわかるはずです。 戸籍の取り寄せ、調べ方などよくわからなければ、行政書士に頼むとよいでしょう。

 

内縁関係の相続権 Q&A

Q1:私の母には15年連れ添った内縁関係にある男性がいて、この男性の持ち家で同

   棲しています。 この男性には娘さんが1人、兄弟2人おります。 この男性

   が死亡した場合、母には相続権がないので、この娘さんに「すぐに家から出て

   行ってください」と言われればすぐに明け渡さなければならないのでしょう

   か?

 

A1:最高裁判例平成120310日は、『内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である。   民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。 このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。 また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。 したがって、生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない。』とします。 つまり「内縁の妻」には、「内縁の夫」の遺産を相続する余地は全く無いのです。(「相続」したいなら、内縁の夫婦が共に生きている間に 役場に婚姻届を提出して「婚姻」する=法律上の夫婦になっておく事が必要です。) なお、母が契約上・法律上の受取人になっている死亡保険金や死亡退職金等があれば、それは「遺産ではない」=「受取人(母)の固有の財産だ」とされていますから、これは受け取れます。 尤も、生前贈与を受けたり、「内縁の夫」の残した有効な遺言書により遺贈を受ける事は出来ます。 但し、生前贈与の場合 贈与税が掛かるし、総財産の1/2を超える生前贈与・遺贈を受けると1/2を超える部分は娘さんから「遺留分減殺請求権」を行使されれば取り返されてしまいます。(内縁の夫婦間では、婚姻期間20年以上の夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの「贈与税の配偶者控除」は、使えません。 遺贈を受けた場合は、母は相続税を支払えば良い事になりますが、「配偶者の税額の軽減」は使えず、「相続人以外が遺贈を受けた場合」として2割増の相続税が掛かります。 男性が亡くなった時点で 娘さんが生きていて 家庭裁判所において相続放棄をしない以上、娘さんが「相続欠格者」にも 「廃除者」にも当たらなければ)、兄弟にも男性の遺産相続権は全くありません。

 

愛人の相続Q&A

 

Q1:愛人に財産を相続させたいが、その方法は?
A1:愛人の財産を全て譲るといった遺言をしたような場合、遺留分を有する相続人 

   は遺留分を請求する権利がありますが、遺言内容そのものが無効となることは 

   原則としてありません。 但し、これがいわゆる不倫関係にある愛人に財産を

   遺贈ということになると、法的に難しくなります。 不倫関係というのはそも

   そも不法行為であり、そうした関係を維持継続するために行われる贈与や遺贈

   は、公序良俗に反するものとして、遺言内容そのものが無効となる可能性が高

   いのです。 まして、愛人に全財産を遺贈する、あるいは妻や子の相続分が愛

   人に比べて著しく少ない、といった内容であればなおさらです。 ただ、長期

   間に及ぶ別居で夫婦関係が実質的に破綻している上、不倫相手と夫婦同然の生

   活を長年送っており、生計のほとんどを遺言者に頼っていた等の特段の事情が

   あったケースで、愛人への遺贈を有効と認めた裁判例もあります。 とは言

   え、こうした遺贈を法的に有効とするためには、かなり厳しい条件が必要とな

   ることから、認められるのはあくまでも例外、と考えておいてください。

 

Q2:愛人の子には相続できますか?
A2:あなたとの間に法律上の親子関係がないので、相続権はありません。 しか

   し、あなたが愛人の子を認知すれば、あなたとの間に法律上の親子関係が認め

   られますので、相続権が発生します。 認知も、父または子の本籍地もしくは

   父の所在地のいずれかの市区町村役場に認知届を提出しておこないます。                                       

4.放置期間が長いほどリスクが高くなる空家になった田舎の実家

 空家になった田舎の家を放置する気はなくても、都会に基盤のある人はすぐに帰るわけにはいきません。 また、売却しようにも土地の相続手続きがきちんとされていなかったり、隣家との境界線が曖昧だったりで、売るに売れないことも多々あります。 相続以外にも、地方に住んでいる親を都会に呼寄せたり、施設に入所させたりするケースが増えているため、多くの人が実家の処分を検討する必要に迫られています。 これまでの日本にはなかった現象が増えてきています。 総務省の調査では、全国の空家総数は2013年現在で、約800万戸以上で、30年前の3倍の数字です、空家が総住宅数に占める割合が15%にも上ります。 空家となった理由の過半をしめるのが、居住者の死亡や相続人不存在による管理不全、所有者が遠方にいるため、定期的管理が不能です。 今年、臨時国会に提出される予定の「空家対策法案」が可決されると、田舎に放置された家はされに厄介な存在になってしまいます。 空家が倒壊の危険性があったり、火災や犯罪を誘発する「老朽危険家屋」と認定されると、固定資産税の優遇がうけられなくなり、自治体の判断で建物を解体し、数百万円の解体費用を所有者に請求できるようになります。 本来は、空家が発生した時点で売るなり貸すなり決めて、できるだけ流動化すべきです。 本来はプラスの遺産であるはずの不動産がマイナスの遺産になる可能性があります。

              

 空家が管理不全となる理由

①所有者が遠方にいて定期的な管理が不能   :約53

②居住者の死亡、相続人不存在による管理不全 :約50%

③所有者が補修や解体の費用が負担出来ない  :約35%

④住替え、子供宅、高齢者施設への転居    :約33%

⑤所有者に適正な管理をする意思がない    :約17%

⑥相続人間のトラブルで管理活用の意思統一不能:約数%

⑦その他、活用が困難なため管理不全     :約13%

 

空家の田舎の実家が起こす問題

①空家の実家に空き巣が入ること。

 金品の被害はたいしたことがなくとも、空き巣にはいられたという防犯面での不安

 を近所に与える影響は大きいです。「親戚や近所の親しい人に、定期的な見回りを

 頼むなどの対策を講じる必要があります」 

②浮浪者や子供らのたまり場になることが多いです。

 荒れ放題になると、浮浪者が入り込んで生活したり、子供たちが溜場にすることも

 あります。 煙草やシンナー遊びなどの非行や犯罪の温床になり易いだけでなく、

 煙草や焚火から火事になり、近隣に火が回る危険もあります。

③廃屋の家の破片が台風で飛んだといった自然災害による被害もおこります。
 修理の行き届いた家なら問題ありませんが、明らかに放置して危険な状態だった家

 が崩れたり、破片が飛び他人に被害を与えた場合は、責任を問われる可能性が大き

 いので注意が必要です。 しっかり管理していないと裁判沙汰になる可能も否定で

 きません。

④登記の名義変更のトラブル
 登記の名義は祖父のままで、その子である父が亡くなればその配偶者や子供たちに

 相続の権利が移る。 気づいたときには相続人が膨れあがっていて、売却の際には

 相続人全員の承諾が必要になり、相続人が全国に いれば、了承を得るために、尋

 ね歩くしかありません。 しかも、誰か1人が売却に反対すれば、話は進みませ

 ん。  

⑤登記名義人に固定資産税の負担がかかる。

 田舎の不動産の固定資産税は高くはありませんが、まれに非常に広い不動産物件を

  所有していると、思いもかけない金額に驚くことになります。 

5.共有名義は最悪の判断、不動産相続の禁じ手

  「共有」とは、複数の人が、ある不動産の所有権を2/11/3などと分けて持っている状態をいいます。

 相続税(申告の必要な人のみ)の申告期限は、原則被相続人の死亡から10ヶ月です。 当事者にとっては、長いようで以外に短いです。 遺言のない親が死亡した場合に、相続人がそれぞれの主張を曲げずに、申告期限に間に合わないケースがあります。 その場合に、全ての不動産を共有名義にしてしまいますと、後で大変なことになります。 共有名義の不動産は持分を単独で売却するのは、実際には容易ではありません。 なおかつ、更地への新築、家の建替え等に際しては、常に名義人全員の同意が必要となります。 そして、相続を重ねる度に持分権利は複雑化し、手が付けられなくなります。 

 共有名義の問題点を例えで説明します。 兄弟妹3人が1棟アパートを相続したような場合を想定してみます。 持分は長男のA男さんが50%、次男のB助さん、長女のC子さんがそれぞれ20%ずつ持っているとします。

 長男のA男さんは、アパートが老朽化しており空室も多くなってきたので売却したいと考えています。 次男のB助さんと長女のC子さんは、大規模なリフォームをして運用を継続したいと考えています。 こうしたケースではどうなるでしょうか?

  まず、A男さんが希望するアパートの売却については、共有名義の不動産を売却するには、名義人全員の同意が必要です。 長男A男さんが売却したいと主張しても、他の共有者が了解しないと、売却はできません。 一方、リフォームの場合も民法251条により、共有者の全員の同意が必要なんです。 このように、共有名義で不動産を相続すると物件の処分や運用に大きな問題が残ります。


共有名義のQ&A

Q1:父と母の共有名義になっているマンションで、母の持分は1/5で先月死亡した父の持分が4/5です。 現在は母と私2人で住んでいます。 父の負債が多額であるため、相続を放棄をした場合、このマンションは今後どのようになるのでしょうか?

 

A1:相続放棄は全ての相続財産を放棄するので、4/5の持分はあなたやお母さんのものではなくなります。 その持分に対して、相続財産を管理人が家庭裁判所で 選任されます。 通常は4/5の持分所有権では買手がつかない場合は、あなた達に買取り要請してくる可能性はあります。 また、4/5を買い取る人が現れてあなた達から1/5持分を買取りにくる可能性もあります。 住み続けるという場合には4/5持分の共同所有者ができますので、その共同所有者の了承を得た上で、あなたたちが妥当な金額の家賃を共同所有者に払うことになります。

 

Q2:30年連れ添った妻と離婚することになりました。 結婚を機に自宅(土地付き戸建て)を購入しました。 家の名義は私5、妻5の共有名義です。 私は家を出て行き賃貸で暮らすつもりですが、妻は再婚を考えています。 まだ自宅のローンが20年以上残っています。 私はどうすればいいのでしょうか?

 

A2:夫と妻間で夫婦間売買をする方法があります。 夫の持分を妻が買い取ることとし、その際、妻名義で住宅ローンを借りて、残存ローンを完済します。 その結果、不動産の名義もローンの名義も妻となり、離婚できます。 実際は、不動産の価格ローン残金÷=夫々の財産額との計算です。

 

Q3:父親が亡くなり兄弟8人が相続を受け、実家の不動産を共有名義で相続しました。 しかし長男は先に亡くなっていたので、その子供3人が代襲相続することとなり、共有名義人は10人になりました。 実家の土地を売ろうとする者、分筆し、分譲を考えている者、家屋に住もうとする者など、意思はバラバラです。

 

A3:非常に時間と労力のかかる話です。 まずは10人に意見を聞き、方向性を決め合意を得ることです。 合意に従い、例えば、一人が全ての持分を買取り、それを売却して持分相当の金員を相続することにするのがベストだと思います。  先祖代々、同じ場所に住んでいると、その土地の登記が誰の名義になっているのか、考えたこともない人が多いと思います。  相続が始まると、まず第一に、不動産の登記名義を確認するために、法務局にて不 動産の全部事項証明書(登記簿謄本)を入手します。 父親の名義だと、思っていた不動産が、祖祖父や玄祖父の名義のままで放置されていた場合は、想定外の相続人の出現が起こり得ます。 何代も前の先祖名義のまま放置されていたら、何人の法定相続人がいるのか、気が遠くなる話です。 かてて加えて、相続人の中の誰かが海外へ移住したり、音信不通の事態となった場合には、さらに解決が困難になります。 名義を変更するには、法定相続人全員の同意が必要です。 遺産分割協議書を順次相続毎に作成し、法定相続人全員の印鑑証明書と戸籍謄本を添付して押印しなければなりません。 

 

未相続の不動産Q&A

Q1:父の死亡で相続が発生しました。 父の実家の不動産が未登記でした。 父は

   4人兄弟で、祖父から相続するという事になると、相続人として考えられるの

   は父と父の兄弟ですか?  祖父が亡くなってから約30年の間、固定資産税や

   その他の費用の支払いは全て父が払っていました。 その土地上に、父が昨年

   3000万円程出して改築した建物があります。

 

A1:先ず、祖父の遺産分割協議書を作成、その後父の遺産分割協議書を作成します。 祖父の法定相続人は、祖母・子供4人父・B・C・Dとなりますが、祖父の没前にBCDが亡くなっていれば、その子()が相続します。 約30年の間の固定資産税や手入れの費用の支払いは考慮の対象にはなりますが、他の相続人との話合いになります。 改築の建物の名義人が祖父ならば、これも相続財産になります。

 

                                           

6.墓と仏壇

 親が死亡した際に、必然的に「」や「仏壇」を相続することになります、民法では墓の使用者が生前に遺言で「祭祀の承継者」を指名していれば、その人が継承することになります。 その際、継承者は必ずしも遺産の相続人や親族である必要はなく、友人などで問題ありません。 指定がない場合は、慣習に従って承継者が決められることになります。 家督相続制度が廃止されましたが、一般的には長男が承継者とされ、墓には祭祀の主宰者として長男の名前が彫られることが多いようです。 しかし、墓を継ぐといっても、墓は「祭祀財産」と言って相続財産とは明確に区別され、相続税の対象にはなりません。 その代わり、継承後は毎年の管理科(年間1~3万円)や供養をする義務(僧侶のお布施)を負うことになり、仏事全般を取り仕切る責任が生じます。 墓を相続するからといって、管理・維持費を相続財産に上乗せするという権利は認められることは少ないです。 相続者を指名しておらず、慣習でも決められない場合、最終的には家庭裁判所に決定して貰うことになります。 しかし、現実的には家族の話合いで決めることが多いです。

 

 都会に暮らす人が多くなるにつれて、地方では過疎という、墓にとっても深刻な問題が生じています。 故郷のお寺には先相代々の墓があっても、跡を継ぐ人間が都会に出てしまったためにお墓の維持・管理をする人かいなくなり、墓地管理料を滞納すると、無縁墓になってしまうことがあります。 そこで墓を都会の霊園に移すという作業が必要になってきます。 埋蔵・収蔵したお骨を他の墓に移すことを「改葬」といいますが、その手続きは「墓埋法」の規定にしたがわねばなりません。 まず、新墓の管理者(お寺や霊園)から「受入れ証明書」を発行してもらいます。 次に旧墓の管理者から「埋墓証明書」を発行してもらい、市町村役場に申請して、「改葬許可証」の公布を受けます。 そして「改葬許可証」を再び、古いお墓の管理者に提示して、住職に墓を引払うための供養をお願いします。 これが「魂抜」と呼ばれるものです。 旧墓に納めていたお骨は、すでに土に返って、なにも残っていないかもしれませんが、そのときは、その土を新墓の納骨棺に入れます。 新墓にお骨を納めるときには、まず「改葬許可証」を管理者に提出し、そのうえで改めて納骨の供養をして貰い新墓籍簿に記入します。 

 

相続の時の手続き

 親が死亡すると、墓がある霊園や寺院に、永代使用権の所有者が代わったことを届出る必要があります。 それは、墓地の管理科の請求先を変更してもらうためです。例えば、都立霊園の場合、墓を承継するときには知事の承認が必要(都霊園条例)であり、知事の承認を受けたうえで墓地の使用許可証の書換えをします。 一方、寺院墓地を承継した場合は、墓だけでなく檀家の務めも同時に受継ぐことになります。 寺にはお墓の承継者の変更届を提出することにより、これ以降、檀家としての扱いを受けることになり、寄付金の要請などに対応しなければなりません。

 

承継者のいないお墓はどうなる

 指定された承継者が毎年墓地の管理料を支払って供養してくれるとは限りません、一定期間、管理料が支払われないときには永代使用権を取消されることになります(都立霊園では5年)。 しかし承継者が全く存在しない場合でも、生前に墓を建て、死後十七年、三十五年の管理料をお寺等に支払っておくという方法や、遺言でその旨を記載する方法もあります。 それ以降はお寺の永代供養塔に入れてもらうよう、一括で永代供養料をしはらえば、問題はないでしょう。

 

お墓の相続問題Q&A

Q1:相続後、お墓の維持費はだれが支払うのですか? 二男が親と同居していたの

   で、法事なども二男がすべて取り仕切っていますが、両親が亡くなった後、二

   男が引継ぐのであれば、費用分を相続財産からもらえますか?  

A1:祭祀承継者の経済的負担を考慮して相続割合を変えることは、よくあることです。 それは、法要の諸費用や墓地維持の費用等、出費が多くなるからです。 遺産分割協議書にて相続人全員が合意すれば、法定相続割合に固執する必要はありません。

 

Q2:先日、父親が亡くなり、兄弟3人で父親の財産を相続することになりました。  長男がその墓を承継することに決まったのですが、二男から、「お墓の取得は特別受益になるので、長男は相続分を減らすべきだ」と要求していますが?

A2: 長男の相続財産を減らすべきとの二男の要求に応ずる必要はありません。 確かに、お墓を新規に購入すると、墓石代、永代使用料等の諸費用がかかります。 このうち、永代使用料は、約20万円~1,000万円というところです。 しかし、お墓を承継するというのは、お墓の管理料を支出したり、多くの出費義務があります。 民法897条では、お墓を相続財産とは別個の祭祀財産とし、相続の財産とはされていません。

                  

7.境界線が不明な土地 

 30年以上売買されていない土地は、境界線が曖昧な形で放置されている可能性が高いです。 土地を物納したり、売却してその金員で相続税を支払う場合は、測量して敷地境界を確定する必要がありますが、相続税の支払いが発生しない場合には、登記簿の名義変更のみで済ませてしますことが殆どです。 従って、いざ建替、売却となってから境界線の問題に気づくケースが多いです。 相続の発生時点で測量をいれるのも一法ですが、本格的な解決にはなりません。 やはり、土地を取得した時の経緯や当時の利用状況を知る、被相続人が在命中にはっきりさせておくべきです。 事情の分からない相続人同士の争いは、その解決に時間と労力が掛り、全く不毛です。

 

 

境界認定の判断資料

 

不動産登記法14条地図

 

 この地図は、昭和35年の不動産登記法の改正により創設されたものであるところ、高度の制度を持った地図です。 現地復元力があり、地震や洪水などの災害のほか、宅地造成などによ、公法上の境界が不明となった場合でも、この地図から現地で境界を復元できる機能があります。

 

 不動産登記法では、一筆の土地ごとに土地登記記録を備えて、これに土地の所在、地番、地目及び地積に関する事項を記載することで、登記された土地を特定することにしています。 しかし、これだけでは土地の位置や区画を具体的に現地で特定することは出来ません。 そこで不動産登記法141項では、登記所に地図および建物所在図を備え付ける旨を、同条2項では、地図は一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものと規定しています。 この地図は公共基準点を基点として境界を測量するもので、必ず筆界点1点ごとの座標値と共に管理され、災害等により土地の位置や区画が不明確になっても境界を復元することが可能となります。 東北、九州地方などでは、整備が進んでいますが、東京などの都市部においては、登記所の予算・人員・複雑な権利関係等からその作製は遅れがちで、本格的に作成されるには至っておりません。 

 

 

①不動産登記法14条条文

 

1.登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする。

 

2.前項の地図は、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものとする。

 

3.第一項の建物所在図は、一個又は二個以上の建物ごとに作成し、各建物の位置及び家屋番号を表示するものとする。

 

4.第一項の規定にかかわらず、登記所には、同項の規定により地図が備え付けられるまでの間、これに代えて、地図に準ずる図面を備え付けることができる。

 

5.前項の地図に準ずる図面は、一筆又は二筆以上の土地ごとに土地の位置、形状及び地番を表示するものとする。

 

6.第一項の地図及び建物所在図並びに第四項の地図に準ずる図面は、電磁的記録に記録することができる。 

 

 

②公図(旧土地台帳付属地図)

 

 公図の原型は、明治時代初期の「野取絵図」や明治時代中期の「更正図」であるといわれていますが、その多くは、地租徴収の為の地図を基本として作製されたものであり、地租を少額にするため、「縄伸び」が多くみられます。

 

公図は、不動産登記法14条地図が備え付けられるまでの間、これに代えて登記所に備え付けられる図面で、土地を特定し、土地の位置、形状、地番等を明らかにする資料として広く利用されています。
 
しかし、公図の精度は、作製時期・経緯、作製方法、地目等によりさまざまであり、一般的に、距離、面積、方位、角度のような定量的側面はそれほど信用することができないので、これのみで現地復元能力を有していません。 もっとも、各土地の形状、その相互の配列状態、道路、河川等との位置関係等を知る参考になると考えられ、今でも利用されています。

 

 

③地積測量図

 

 地積測量図とは、土地の表題登記、分筆登記、地積変更登記など、登記簿上、新たな地積を記載すべき登記又は登記記録上の地積に移動を生ずる登記の申請の際に添付情報としえ登記所に提出される図面であります。 もともとは、地積の求積方法・算出根拠を知るために添付されたものですが、現在は申請にかかる土地の地積および求積方法、方位、地番、隣地の地番を明らかにするとともに、境界標があるときは境界標を、ないときは近くの「恒久的地物」、すなわち恒久的に存在するものとの位置関係を記載することとなっており、現地特定・復元機能を有します。 しかし、特定の境界標を中心にして実測された部分に限定されるので、それ以外の土地に関して基準とはなりません。

 

 

 

第一境界確定訴訟

 

第1公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)の違い

 

.公法上の境界(筆界)

 

(1)公法上の境界(筆界)の定義

 

  1)表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間

 

  2)当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた

 

  3)2以上の点及びこれらを結ぶ直線

 

(2)公法上の境界(筆界)の変更

 

  公法上の境界(筆界)は、客観的に固有するものであり、各筆の登記簿上の所有名義人の意思のみによって筆界を処分したり変更したりすることはできない。 (最高裁昭和311218日判決)

 

  公法上の境界(筆界)を変更するためには、登記官が分筆、合筆(不動産登記法39条)という形成的行政処分を行わなければならない。

 

(3)紛争の解決方法

 

  紛争の解決は、これまで境界確定訴訟によって行われたが、平成17年の不動産登記法改正により、筆界特定制度も紛争解決の新たなメニューとして加わった。

 

.私法上の境界

 

(1)私法上の境界(所有権界)の定義

 

  私法上の境界(所有権界)は、所有権に基づき、隣接地当事者間で合意された境

  界線である。

 

(2)私法上の境界(所有権界)の変更

 

  私法上の境界(所有権界)は、私的自治の原則に基づき、当事者が自由に決定

  し、処分できる。

 

(3)紛争の解決方法

 

  私法上の境界(所有権界)に争いがある場合は、所有権の範囲を確認する所有権 

  確認訴訟(民事訴訟法134条)によって解決する。

 

.これまでの裁判実務においても、公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)は、明確に峻別され、境界確定訴訟の審理の対象である「境界」は、公法上の境界(筆界)を指すものと解され、私法上の境界(所有権界)は通常の所有権確認訴訟により解決されてきた。

 

.公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)が異なる場合

 

(1)公法上の境界(筆界)は、手続法である不動産登記法により、私法上の境界(所有権界)は実体法である民法により規律される。

 

(2)公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)は一致する場合が多い。

 

(3) しかし、一筆の土地の一部が売買されたにもかかわらず、分筆・合筆登記がなされなかったり、公法上の境界(筆界)を越えて土地の一部が時効取得される(民法162条)などして、両者が一致しない場合がある。

 

 

第2境界確定訴訟の対象としての境界

 

 判例・通説は、公法上の境界(筆界)こそが境界確定訴訟の対象であるとする。

 

 

第3境界確定訴訟の性質

 

 実質的な非訟事件であり、少なくとも立証責任の適用がなく、従って、境界線について証拠上証明がなくても原告は請求を棄却されることがなく、裁判所によって妥当な境界線を確定してもらうことができる。 形式的形成訴訟説が通説・判例である。 客観的な境界線を発見できない場合でも、また、当事者の主張に拘束されないで (当事者の合意にも左右されない。民事訴訟においては、裁判所は当事者の申し立てない事項について判決することができないとされている(民事訴訟法246条)が、境界確定訴訟は、民事訴訟法246条の適用がない。認諾にも拘束されない。)衡平の観点から境界を確定し得る訴訟としてこそ境界確定訴訟の存在理由がある。 控訴審での不利益変更の禁止(民事訴訟法304条)の適用がない。 このような訴訟の本質は非訟事件であるというべきで、境界確定訴訟は本来非訟事件であるものを民事訴訟の形式によらしめたもので、形式訴訟というほかはない。

 

 

第4国有地と私有地との境界

 

 国有地と私有地との境界に関して紛争を生ずることがある。 その場合の解決方法として、国有財産法に特別の定めがある。 国有財産の境界が不明な場合で、その管理に支障がある場合には、隣接地の所有者に対し、立会場所、期日その他の必要な事項を通知して、境界を確定するための協議を求めることができ、その所有者は、やむを得ない場合を除き、その協議をしなければならない。 協議が整えば書面により確定された境界を明らかにしなければならないし、協議が整わないときは、行政上の処分を行えない(国有財産法31条の3)。 隣接地の所有者が協議に応じない場合には、当該隣接地の所在する市町村の職員の立会を求め、更に、その地域を管轄する財務局に置かれた地方議会に諮問する等の手続を経た上で、各省各庁の長は、境界を確定することができる(国有財産法31条の4)。 この境界の定めには、公告のあった日から60日内に不同意を通告することができ、その通告がないと同意があったものと見做され(国有財産法31条の5、境界が確定する。 上記の国有財産法31条の3ないし5による境界は、国有地と隣接民有地との所有権 の範囲を定める私法上の契約と解すべきであるとして、その行政処分性を否定している。 従って、当事者としては、改めて公法上の境界(筆界)の確定を求めて境界確定訴訟を提起することは可能である。 しかし、一旦所有権の範囲を確定したということは、相当強く斟酌される。(大阪地裁平成4622日判決、鳥取地裁米子支部平成61110日判決)

 

 

第5 境界確定訴訟の立証

 

.証拠調手続

 

 1)証人尋問、2)当事者尋問、3)鑑定、4)書証、5)現場検証、6)職権証拠調

 は出来ない(通説)

 

.書証

 

 1)地図
  ・不動産登記法14条1項地図、 ・法務局作成地図、・国土調査法に基づく地籍

   図、・土地区画整理法、土地改良法に基づく土地所在図 

 

 2)測量図、 3)土地登記簿謄本、 4)公図旧土地台帳附属地図、5)写真、6

   古文書、7)古地図

 

8)空中写真、9)その他                                     (注)国土調査法による地籍調査はあくまでも土地の現状のあるがままに調査するものであり、その結果によって境界を確定したり、形成したりする効力を有するものではない。(最判昭和61714日) 国土調査の結果地籍図が作成されても、その記載の通り境界が画定するわけではない。

 

 

 

第6境界確定訴訟の判決の効力

 

 境界確定訴訟の判決は、形成判決だから、対世効があり、訴訟の当事者でない第三者も登記官も拘束される。 

 

 

第二 筆界特定制度について

 

.筆界特定の定義

 

(1) 筆界特定とは、一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定出来ない場合は、その位置の範囲を特定すること)を指す。(不動産登記法123条)すなわち、筆界特定登記官という公的機関が、筆界の現地における位置について、不動産登記法第6章の「筆界特定」の手続に基づく「認識を表示」する行

 

   為である。

 

(2)筆界特定登記官は、筆界の形成はできない。 あくまで筆界の位置ないし筆界の位置の範囲を特定し確認するだけである。

 

(3) 「筆界特定」は、行政機関である筆界特定登記官が行う行為だが、単に筆界特定登記官の認識を表示し、位置を特定する行為であり、新たな筆界を形成する行為ではなく、行政処分としての性質を有しない。

 

.境界(筆界)確定訴訟(不動産登記法1447条、148条等)と筆界特定制度との関

  係

 

(1)手続の先後関係はない。(筆界特定前置主義はとらない。不動産登記法147

  条)

 

 1)境界確定訴訟が未提起 →筆界特定の申請可能

 

 2)境界確定訴訟が提起済み
  ア 判決が言い渡されていない
     →筆界特定の申請可能
  イ 判決が言い渡されたが判決が確定していない
     →筆界特定の申請可能
  ウ 判決が言い渡されて判決が確定した
     →筆界特定の申請は却下

 

 3)既に筆界特定がなされている
     →筆界特定の申請は却下
     (特段の必要がある場合を除く)→境界確定訴訟は提起可能

 

(2)効力の関係

 

   筆界特定は、境界確定訴訟の判決に抵触する範囲で失効する。(不動産登記法

   148条)

 

 

第四官民境界確定方法

 

. 地番の付されていない国有地の所在を図面上で表示し、同地と地番の付された民有地との境界の確定を求める訴訟は、事実の確認を求めるものではなく、適法な境界確定の訴えである。(国が、河川敷地について、所有権を主張する被告らに対し、所有権確認・境界確定を請求した事案である。)(最高裁平成5330日判決)

 

. 国有財産法31条の3の協議による境界確定は行政処分に該当しない。 但し、この判決は、国有財産法31条の4の決定による境界確定には触れていない。(東京地裁昭和56330日判決)

 

 

Q&A

 

Q1:土地の境界とはなんでしょうか?

 

A1:土地には2種類の「境界」があることをご存じですか。一つは、その土地が法務局に初めて登記されたときにその土地の範囲を区画するものとして定められた「筆界」と言われる土地と土地とを区画する境界です。その後に分筆や合筆の登記手続により変更されていないかぎり、登記されたときの区画線がそのまま現在の筆界となります。筆界は、土地の所有者同士の合意によって変更することはできません。  もう一つは、「所有権界」といって、土地の所有者の権利がどこまで及ぶのか を画する境界です。所有権界は土地の所有者間で自由に移動させることができます。筆界と所有権界は一致するのがふつうですが、土地の一部についてほかの方に譲り渡したり、ほかの方が時効によって所有権を取得したりした場合には、筆界と所有権界が一致しないこともあります。 土地の境界をめぐる紛争のほとんどは、「筆界不明」によるものです。特に、古くからの土地の場合、隣地との筆界が不明な場合も多く、その土地にある家屋を改築したり、土地を売買したりしようというときに、筆界をめぐってトラブルになるケースが少なくありません。そこで、こうした筆界をめぐるトラブルの予防や早期解決に役立てるため、不動産登記法等の一部を改正する法律により、平成181月から「筆界特定制度」が始まりました。

 

2筆界特定制度とはなんですか?

 

A2:筆界特定制度とは、土地の所有者の申請に基づいて、筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。筆界特定とは、新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上、過去に定められたもともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。特定された筆界は、公的機関が判断を示した筆界となり、土地の筆界の位置が問題となったときなどに、筆界の位置を示す証拠としての力をもちます。  土地の筆界をめぐる問題が生じたときには、裁判(筆界確定訴訟)によって筆界を明らかにするという方法もありますが、その場合、筆界を明らかにするための資料収集は所有者自身が行わなければなりません。 筆界特定制度を活用することによって、公的な判断として筆界を明らかにできるため、隣人同士で裁判をしなくても、筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。また、当事者の資料収集の負担も軽減されるというメリットもあります。

 

Q3:筆界特定はどのように行われますか?

 

A3:筆界特定は、土地所有者などからの申請に基づいて行われます。  筆界特定の申請ができるのは、土地の所有者として登記されている人、または、その相続人などです。申請人は、対象となる土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局の筆界特定登記官に対して、申請書に必要事項を記載し、必要書類を添えて申請することになっています。 筆界特定登記官は、申請に基づいて筆界特定の手続きを開始し、土地家屋調査士や弁護士などの民間の専門家から筆界調査委員を任命して調査を行います。 筆界調査委員は、土地の実地調査や測量を含むさまざまな調査を行った上、筆界に関する意見を筆界特定登記官に提出します。筆界特定登記官はその意見を踏まえ、筆界特定を行います。 なお、申請人や関係人は、筆界特定が行われる前に、筆界特定登記官に対して、筆界に関する意見を述べたり、資料を提出し たりすることができます。

 

Q4:筆界特定制度を利用するメリットはなんですか?

 

A4:筆界をめぐる問題の解決に筆界特定制度を活用することには、次のようなメリットがあります。

 

1)裁判に比べて費用の負担が少ない

 

筆界特定制度を申請する際には、申請手数料がかかります。申請手数料は、対象となる土地の価額によって決まり、例えば、対象となる土地(2筆)の合計額が4,000万円の場合は、申請手数料は8,000円になります。また、申請手数料のほか、現地における筆界の調査で測量を要する場合には、測量費用を負担する必要があります。 一般的な宅地の測量の場合、測量費用は数十万円程度となりますから、申請手数料と合計しても、裁判に比べて費用負担は少なくて済みます。  

 

 

筆界特定申請手数料一覧

 

   土地の合計価格(円)   手数料(円)
    
04,000,000               800
   4,000,0018,000,000            1,600
   8,000,00112,000,000         2,400
  12,000,00116,000,000         3,200
  16,000,00120,000,000        4,000
  20,000,00124,000,000         4,800
  24,000,00128,000,000         5,600
  28,000,00132,000,000         6,400
  32,000,00136,000,000         7,200
  36,000,00140,000,000         8,000
   40,000,00148,000,000         8,800
  48,000,00156,000,000         9,600
  56,000,00164,000,000       10,400
   64,000,00172,000,000     11,200
  72,000,00180,000,000     12,000
  80,000,00188,000,000     12,800
  88,000,00196,000,000     13,600
  96,000,001104,000,000   14,400
  104,000,000112,000,000   15,200 
     112,000,000120,000,000   16,000 
     120,000,000128,000,000   16,800 

 

      

 

2)裁判よりも早期に判断が示される

 

         筆界特定制度の手続きは、訴訟手続に比べて早期に判断が示されます。裁判では、判断が示されるまでに約2年かかるといわれていますが、筆界特定制度の場合は半年から1年で判断が示されます(ただし、複雑な問題の場合には、判断までに長期間を要するものもあります)。

 

   (3)民間の専門家の意見を踏まえた判断であり、証拠価値が高い

 

         筆界特定制度では、筆界調査委員として、土地家屋調査士、弁護士などの民間の専門家が関与します。筆界特定は、公的機関が専門家の意見を踏まえて行った判断であることから、その内容について高い証拠価値が認められており、裁判手続でもその結果が尊重される傾向にあります。

 

   筆界特定制度は、境界紛争の相手方が話し合いに応じてくれない場合でも、一方の土地の所有者だけで申請することができます。また、隣人と裁判をしなくても、土地の筆界を明らかにすることができ、土地の筆界に関する問題の解決やトラブル防止を図ることができます。 ただし、所有権の範囲についての争いについては、直接の解決を図ることはできません。また、筆界特定の結果は、行政によって一つの基準が示されるということにとどまり、拘束力はありません。特定した筆界に不満がある場合や、拘束力のある判決が必要な場合には、裁判(筆界確定訴訟)で解決を図ることになります。

 

5:所有権界をめぐる境界トラブルの解決方法でADRがありますか?

 

A5: 例えば、筆界特定によって筆界が判明したとしても、その土地の一部について、所有者でない人が長年利用しているなどの事実があって、時効によってその部分の所有権を取得している場合は、その所有権界と先に特定された筆界とは異なることになります。このように筆界と所有権界が異なる土地について、所有権界を明らかにすることを求めている場合には、土地家屋調査士会ADR(境界問題相談センター)または裁判(所有権確認訴訟)で解決を図ることになります。

 

 http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201112/img/c_04.jpg

 

   このうち、土地家屋調査士会ADRは、各地の土地家屋調査士会が運営する制度で、裁判ではなく、土地家屋調査士と弁護士が調停人として当事者間の話し合いのお手伝いをすることによって、所有権界に関する問題の早期解決を図るものです。裁判の判決のような強制力はありませんが、和解契約書を履行しなければならないという法的効力が付与されます。 土地家屋調査士会ADRや境界確定訴訟でも、筆界特定制度による筆界は、証拠として活用されますので、筆界特定制度は、境界トラブル解決の第一歩ということができます。 法務局・地方法務局では、筆界特定制度を申請した方の話をよく聞き、所有権界の問題解決を求めている場合には、土地家屋調査士会ADRなどの利用をご案内しています。境界トラブルでお困りのときは、お近くの法務局・地方法務局に相談ください。 

 

 

 

 筆界特定制度と土地家屋調査士ADRとの比較

 

 

筆界特定制度

土地家屋調査士会ADR

 対象

   筆界

   筆界

   筆界

  筆界の確認

  所有権界

  民事紛争

  解決方法

 筆界特定登記官の判断

  話し合い

  決定書類

 筆界特定書

  和解契約書

  法的効果

 拘束力はない

  契約の履行