推定相続人の廃除

 「横浜のアオヤギ行政書士事務所」推定相続人の廃除につき解説いたします、ご意見やご質問は下記のフォームに記載の上、メールにて送信下さい。 なお、返信希望のご質問には、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。

 

 昨今、認知症や加齢により衰弱した親や配偶者に対して、息子や配偶者が暴力をふるったり、侮辱的な言葉で罵ったりで虐待するなどの話を聞くことが増えてきているように思います。 そのような、推定相続人に対して、遺産を絶対に残したくないと考えるのは、ごく自然な流れです。 その具体的な方法は、民法892条~894条に規定されております。  民法第892条の定めは、「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」と推定相続人の廃除について規定されています。 「廃除」された推定相続人は、相続権を失い、相続人となることができません。 ただし、その直系卑属につき代襲相続は発生します(887条)。 廃除の原因としては「虐待」「重大な侮辱」「その他著しい非行」があげられています。 廃除の対象となるのは「遺留分を有する推定相続人」のみです。 叔父、叔母、兄弟姉妹は遺留分を有しませんので(1028条)、廃除の対象にはなりません。 推定相続人の廃除は、被相続人が家庭裁判所に請求することで行います。 しかしながら、家庭裁判所はこの申立てに対し慎重に審議する傾向にあり、実際に相続廃除が認められた事例は多くありません。

 遺言によって行うこともできます(893条)が、推定相続人が家庭裁判所に異議申立てをすると認められない場合が多くあり、推定相続人が一切の異議を申立てないか、重大な犯罪行為で刑務所に入っている最中でもなければ相続権が完全に剥奪されることは稀です。 

 従って、家庭裁判所に請求するときには、虐待の被害を証明する医者の診断書、写真などの証拠を残しておくと、非常に有効です。

 また、被相続人は廃除の取消しをいつでも家庭裁判所に請求できます(894条)。 

一方、子から孫への贈与税を免れる手段として故意に相続廃除となるような事由を偽装した場合は、贈与税が課税されます。 

 

遺言により相続排除を行うには

 民法第893条の定めは、「被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。 この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と遺言による推定相続人の廃除の規定です。  

 遺言書で、遺産執行者の指定がある場合は、指定された執行者が相続排除を家庭裁判所に請求することになりますが、遺言執行者が存在しないケース(指定または指定の委任がない、指定された者が就職を拒絶した場合等)、又は亡くなったとき(遺言執行者死亡、解任、辞任、資格喪失などの事由が生じた場合)は、家庭裁判所は、利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者など)の請求によりこれを選任することが出来る」と規定しています。 裁判所への申立書には、通常、遺言執行の候補者を記載しておきます。 申立人は、相続人、受遺者、相続債権者及びその遺言の執行に関し法律上の利害関係を有する者です。 申立てする裁判所は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。 申立てに必要な費用は①執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分、②連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認して下さい。 各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。) 申立ての必要書類は(1)申立書、書式記載例(2)次の標準的な申立添付書類①遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)②遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附表 ③遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家裁に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)、④利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本、全部事項証明書等)。 もし、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は、その戸籍等は申立後に追加提出することも出来ます。  審理のために必要な場合は、追加書類の提出を要求されることがあります。

 

推定相続人廃除の判例・Q&A

離婚が決着していない配偶者を相続人から廃除することは可能か?(大阪高裁昭和44.12.25決定)

廃除は、遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪することを目的とする制度である。 配偶者の一方に著しい非行がある場合、被相続人となる配偶者が、相手方の非行を理由に離婚を請求するか、または離婚請求をせずに推定相続人の廃除を請求するかは、当該配偶者の自由である。

 

 

相続排除の自筆証書遺言サンプル

                 遺 言 書 

遺言者○○○○は、以下のとおり遺言する。

第1条 遺言者は、遺言者の有する財産全部を妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。

第2条 遺言者は、遺言者の長男○○○○を下記の理由により相続人から廃除する。

                  

 長男○○は、遺言者夫婦の一人息子ですが、3年前の平成23年2月に会社を辞めて以来仕事に就かず、遺言者夫婦に金を無心して、酒浸りの生活を続け、競馬、競艇、競輪等の賭け事に凝っています。 私たち夫婦が注意をして無心を断ると、遺言者や妻が趣味で集めた美術品、時計や宝石などを、家から無断で持ち出し、質屋に入れて金を作っています。 また、長男は、1年前ころから私たち夫婦が注意をすると、遺言者夫婦に暴力を振るうようになっています。 夫婦併せて今まで10回以上の暴行を受けていますが、その中でも、遺言者は、平成25年○月○日に、長男から右手の拳で左目を殴られて左目から出血したため、眼科に1週間くらい通院して治療を受けていますし、また、同年○月○日には、胸を手の拳で3回くらい強く突かれたため、胸が痛くなり、外科で診察を受けたら、肋骨にひびが入っており、1週間ほど治療を受けたことがあります。 いずれも医者から診断書を貰っていますので、本遺言書に添付しておきます。

 このような長男の行為は、遺言者に対する虐待・重大な侮辱・著しい非行に当たりますので、長男を推定相続人から廃除します。

第3条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、妻○○○○を指定する。

2 遺言執行者には、遺言者名義の預貯金の名義変更、払戻し、解約など、この遺言の内容を実現するために必要な行為をする権限を与える。

 平成26年2月2日

                        横浜市中区本牧三丁目○番○号  

                             遺言者 ○○○○  自筆証書遺言書作成の注意事項

     全て自筆で書くこと

     誤字脱字は訂正せずに、書き直すこと(訂正は可能ですが、複雑のため)

     日付を正確に書くこと

     印鑑の押印を忘れないこと、出来れば実印が良い

     封筒に入れて、同じ印鑑で封印するこt

     封筒の表に「遺言書」、「開封厳禁」と記載すること

     裏面に名前を記載すること

     大切に保管すること

     相続開始時は家庭裁判所に検認手続を行う。近くの家庭裁判所に出向いて必要書 

  類を入手し、書類を提出すること

 

推定相続人廃除のQ&A 

Q1: 推定相続人排除の申立て調停を父が家庭裁判所に請求したため、家庭裁判所から呼び出し通知が来ました。 どのような対応をすれば、良いですか? もし、無視して家庭裁判所に行かなかったらどうなりますか?

A1: 遺留分を有する推定相続人であるあなたが父親に虐待、重大な侮辱を加えた、その他著しい非行があったとき、父親は、あなたの推定相続人排除を家庭裁判所に請求できると民法に規定されています。 これは、家庭裁判所の審判によって決定されることになっています。 あなたがこの呼出しを無視すれば、調停は不調となり、父親が調停申立てを取下げなければ、そのまま審判に移行します。
 審判になれば、父親が提出した資料等に基づき、あなたに前記のような推定相続人の廃除に該当する事実があったかどうかを判断することになります。 あなたが調停を無視したというだけで、あなたに不利な審判がなされませんが、父親からあなたに不利な資料等が提出されても、それに対してあなたは反論できませんので、調停に応じて、取りあえず、呼び出しに日時に家庭裁判所にいくことです。

 下級審の審判例では、「著しい非行」について、相続的協同関係と目される家族的生活関係を破壊するような特段の非行であり、刑事事件を起こしたというだけでは足りず、さらに被相続人に何らかの財産的、精神的損害を与え、相続的協同関係を壊すおそれのあるようなものであることを要すると解しています。
 例えば、刑務所に何度も出入りの事実がありますと、被相続人に精神的損害を与え、相続的協同関係を壊すおそれのあるようなものであると判断される可能性は大きいと思われます。

 

 

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