会社設立の現物出資

 「横浜のアオヤギ行政書士事務所」が会社設立の現物出資について解説いたします、ご質問やご意見は、下記のフォームに記載の上、メールにて送信下さい。  なお、返信希望のご質問には、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。

 

現物出資とは
 本来、出資は金銭を原則とするが、例外的に金銭以外の財産をもって出資することも可能です。 これを現物出資といい、会社設立時、或いは増資時における金銭以外の財産の出資をいいます。 手持ちの金銭が十分でない場合、新会社で使用できる発起人の個人財産がある場合に、現物出資を金銭に代わって行うことが出来ます。

 

現物出資に関する会社法の規定

① 発起人は、定款に500万円を超える現物出資についての記載又は記録があるとき  

      は、定款の公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対

      し、検査役の選任の申立てをしなければならない(33)。

② 設立時取締役は、その選任後遅滞なく、500万円を超えない現物出資財産等を調 

      査しなければならない(46条)。

③ 株式会社の設立に際し現物出資できるのは、発起人に限られる(34条63条)。

④ 出資された財産等の価額が不足する場合の責任(52条

 

現物出資の対象となりえるもの

① 土地・建物などの不動産

② 機械、自動車、原材料や棚在庫品など

③ 有価証券(株券、国債、社債、地方債など)

④ 代金請求権、家賃請求権などの債権

⑤ 営業権、漁業権

⑥ 工場所有権、特許権、著作権など、かたちのない財産

 

現物出資の価格の決め方

 現物出資の価格の決め方と注意点は下記のとおりです。

 ① 現物の価格は時価(出資する時の価格=価値)
   出資するものが、モノである場合は新品の時の購入価格ではなく、現在の相場価 
       格を定款に記載します。
       現在の相場価格は、yahooオークションや中古自動車のHPなどで、出資 しよう
       とするモノの現在の価値を調べて下さい。
②  出資する現物の価格が、時価を超えてしまうと、出資した側に譲渡税がかかりま 
       す。   例えば、10万円の価値の車を100万円で現物出資したとすると、その差額
       の90 万円に対して譲渡税がかかります。
   ですから、500万円以下であれば、添付書類が不要な現物出資ですが、資本金を
       上げたいなどの理由で高額につけてしまうと譲渡税がかかる場合があるので、
       注意が必要です。

③  出資したモノは耐用年数の範囲内で減価償却出来るので、税金対策にもなりま

       す。   10万円以上から30万円までの資産は少額資産として認められます。   

    また、20万円未満の減価償却資産は一括して3年間で均等に償却することも

   できます。    ただし、中小企業と大企業ではその資産の価格によって税法が異

       なります。   ですから、現物出資するものの価格を決定し兼ねる時は、税金面で

       有利な金額である30万円以内の少額資産の範囲内に設定するのもひとつの考え方

       です。

 

財産引継書の作成

 財産引継書は、2通作成し、1通は会社の保管用、1通は設立登記の際の調査報告書商業登記法第47条第2項第3項イ)の附属書類として法務局に提出します。

 

財産引継書のサンプル

         財産引継書

現物出資の目的たる財産の表示

(現物出資する財産の種類)

(具体的な商品名) ○○○○株式会社 ××××

(商品固有のシリアルナンバー等) 製造番号○○××△△

   価格合計 金200万円也

以上、私所有の上記財産を現物出資として給付します。

                      平成25年10月○日
                      神奈川県横浜市中区本牧1-1-1
                       発起人 行政太郎 印

株式会社××××御中
 

調査報告書の作成

 現物出資の対象となる財産が引き渡されたとき、設立時取締役(監査役設置会社であるときは設立時取締役及び設立時監査役)は、その選任後遅滞なく、現物出資の対象となる財産について、定款に記載されている価額が相当であるか調査しなければなりません(会社法第46条第1項)。

 そして、調査結果が相当である場合には、調査報告書を作成し、設立登記申請書の添付書面として提出します(商業登記法第47条第2項第3項イ)。

 

調査報告書のサンプル

             現物出資報告書

私は平成25年10月○日、株式会社○○○の取締役に選任されましたので、会社法第46条の規定に基づき調査致しました。 その結果は下記のとおり報告致します。

調査事項

1.定款に記載をされた現物出資財産の価格に関する事項(会社法第33条第10項第1   

  号及び第2号に該当する事項)

  定款に定めた、現物出資をする者は発起人○〇○〇であり、出資の目的たる財産 

  その価格、並びにこれに対し割当てる設立時発行株式の種類及び数は下記の通り

  です。

  イ. 乗用車トヨタクラウンアスリート平成23年式 車体番号○〇○〇

     この価格 180万円

     これに対し割当てる設立時発行株式 普通株式 180株

  ロ. パソコン 東芝株式会社 平成25年生FH-999、製造蛮行○○

     この価格 20万円

     これに対し割当てる設立時発行株式 普通株式 20株

 ① 上記イについては、時価金200万円と見積もられるべきところ、定款に記載した評 

  価額はその十分の九の金180万円であり、これに対し割当てる設立時発行株式の数

  は180株であることから、当該定款の定めは正当なものと認めます。

② 上記ロに就き、当該市場価格は20万円であり、定款に記載した評価額はその一分 

  の一であり、これに対し割当てる設立時発行株式の数は50額であることから、

  当該定款の定めは正当なものと認めます。

2.発起人○〇○〇の引受けに係る200株について、平成25年10月○日現物出資の目的 

  たる財産の給付があったことは、別紙財産引継書により認めることが出来ます。

3.その他、設立手続きが法令または定款に違反している事項は認められません。

上記のとおり会社法の規定に従い報告致します。

平成25年10月○日

株式会社○○○

設立時取締役○○○印

  

現物出資の魅力
   資金不足の場合でも金銭以外の財産を有する場合には現物出資により設立、増資が可能となります。

現物出資の問題点
   現物出資された財産が過大評価されたなら、その評価額に相当する現実の資本が会社に確保されたことにならず、資本の空洞化をもたらし、又は資本充実責任の原則に反し会社を害するおそれがあります。このように、出資者による制度の悪用の可能性も高いことから、「現物出資」には、下記の通りの規制がかけれられています。

検査役の調査
 この場合、原則として財産の評価について裁判所専任の検査役を専任してもらい調査を受ける必要があります。 しかし検査役の調査は長期間を要し、費用も多額になることから下記のような例外が認められています。

例外規定
① 現物出資者に割り当てる株式の総数が発行済株式総数の1/10を超えないとき
② 現物出資する財産につき募集事項として定めた価額の総額が、500万円を超えない  

 とき
③ 財産が市場価格のある有価証券で、その有価証券について募集事項として定めた価

  額がその市場価格を超えないとき
④ 現物出資する財産につき募集事項として定めた価額が相当であることについて、

    護士、監査法人、税理士、公認会計士 の証明を受けたとき。 現物出資財産の価額

  が500万円を超える場合でも、上記の弁護士等の評価証明書があれば、検査役の調

  査は不要となりました。

⑤ 現物出資する財産がその株式会社に対する金銭債権(返済期が到来しているもの)

    であって、当該金銭債権につき募集事項として定めた価額が当該金銭債権に係るそ

    の株式会社の負債の帳簿価額を超えないと現物出資財産の価額が500万円以下の場 

  合には、検査役の調査も弁護士の評価も不要です。 

       

不動産鑑定評価の必要性
   上記④ような場合に検査役の検査に替えて弁護士、公認会計士、税理士の現物出資の財産に対する評価証明の発行を持って検査役の調査に替えることが出来ます。
この場合に不動産を現物出資する場合には証明に加えて不動産鑑定士の評価証明書、即ち不動産鑑定評価書が必要となります。   何故なら不動産は個別性が強く適正な価格を把握するためには不動産鑑定評価によらなければならないからです

 

現物出資デメリット
   デメリットこそ重要な情報であるということ、そしてメリットは場合によっては、デメリットを更に上回るからなのです。
1.現物出資をした後は手続が必要
 現物出資とは、会社から株式を与えられる代わりに、個人所有の財産が会社所有の財産になるということです。
 個人から現物出資として給付された財産は、会社のものとなり、個人に返還する義務はありません。
 このように、財産の所有権が個人から会社(法人)に移転しますので、その財産によっては所有権移転の手続が必要になるものがあります。 具体的には不動産(土地・建物)や動産では車などです。
 不動産では所有権移転登記が必要になりますし、車についても名義変更手続が必要になります。
 これらの手続は登記前に行う必要はありませんが、登記後には行わなければなりません。
 これら手続には多少の費用もかかりますし、専門家に依頼すれば専門家への報酬も必要になります。
 こういった事を考えますと、出資する現物財産によっては、現金出資のみによる通常の会社設立に比べて、行わなければならない手続が増える場合があります。
 これが手続き上のデメリットです。

2.現物出資には税金がかかる
 また、上記の手続の話にも関連しますが、現物出資には税金がかかる場合があります。 先ほどの手続でいいますと、不動産の場合は所有権移転登記を行いますので、まず登録免許税が必要になります。 そして、不動産を取得した会社(法人)には不動産取得税や固定資産税がかかってきます。
 車についても同様で、車種や年式によっては自動車税や自動車取得税が会社(法人)にかかってきます。
 また、現物出資を行った個人(株主)に対しては譲渡所得税がかかる場合があります。 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいいます。
会社(法人)に対する現物出資も、その対価として株式(持分)を取得するわけですから、通常の売買と同様、ここでいう譲渡所得にあたります。
 譲渡所得の対象となる資産としては、土地、建物、機械器具、ゴルフ会員権、特許権、著作権、特定の有価証券などがあります。 なお、貸付金や売掛金はなどの金銭債権は対象とはなりません。
 もちろん個々の財産の状況によって、税額や税金の有無も変わってきますが、少なくとも現物出資をすることによって、一時的にも手続が発生したり、会社・個人双方に税金負担が発生する場合があるということを充分念頭に置いておく必要があります。
 

現物出資の定款記載例

<現物出資>この価格 180万円

第25条 当会社の設立に際して現物出資をする者の氏名、出資の目的である財産、そ

    の価格及びこれに対して割当てる株式数は、次の通りです。

      (1) 出資者 発起人 ○○○○

    (2) 出資財産及びその価額

                 イ. 乗用車トヨタクラウンアスリート平成23年式 車体番号○〇○〇

                この価格 180万円

                これに対し割当てる設立時発行株式 普通株式 180株

             ロ. パソコン 東芝株式会社 平成25年生FH-999、製造蛮行○○

                この価格 20万円

                  これに対し割当てる設立時発行株式 普通株式 20株

 

 

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